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2012-03-30 09:55

(連載)重大な転換期を迎えたオバマ政権の医療改革法案(1)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 2010年に制定されたオバマ政権の医療改正法に関する米国最高裁の聴聞が26日から28日までそれぞれ約2時間の設定で開催されました。この法案は2014年から施行される予定ですが、2010年共和党議員らにかなりの修正を加えられて署名に至った後もこの法の合法性をめぐり論争が続き、ほぼ足踏み状態になっています。国民に医療保険の加入を義務づけ、「加入しない国民には罰金を科す」とする「強制加入(Individual mandate)」は合法的であるかどうかがこの聴聞の主要点です。この期間、9名の最高裁判事の聴聞に対し、答弁に応じたのは、オバマ政権を代表する弁護士、最高裁に代表答弁の指名を受けた健康医療保険専門の弁護士、更に26州および個人事業団体を代表する弁護団などです。この期間、多くのデモンストレータが最高裁の前に詰め寄り、この問題の関心度と重要性を改めて浮き彫りにする一方で、法廷は合法性の是非をめぐる論争にひとまず終止符を打つことになりそうです。

 この医療保険改正法は、患者保護及び無理のない医療保険法(Patient Protection and Affordable Care Act)のもとに、医療の質と効率性を掲げていますが、反対する人達には別の理由があるようです。購入したくない物を無理に押し付けられることは、根本的に「自由の侵害である」ということです。また、政府の権限が拡大する可能性を懸念する議員や一般の国民もこの医療改正法に反対しています。一方、支持派は逆に「自由が拡大する」と主張しています。その理由は、何らかの病気を既に患っている人は加入できない従来の医療保険制度に反して、更に現在健康保険に加入出来ない3000万人以上の保険加入が可能になること、高騰し続ける医療費を抑えることなどの利点を強調しているからです。このように、前者と後者の「自由」の解釈が異なっていますが、その対比はほぼ半々のようです。立場を明確にせず沈黙を守っているのは唯一医療保険会社です。医療保険加入者が増大すれば、利益が見込めることは明らかですが、支持を明らかにすると宗教団体からの圧力が懸念されるからです。

 26日に始まった米国最高裁での聴聞は、この罰金を徴収する方法が課税と同じだとする観点から税金ではないかとする意見が提起され、罰金が税金の類になるのかどうかという疑問が論争の焦点になりました。加入しない国民に対して、実際にその罰金を科すケースが発生する以前に、最高裁で聴聞することは、反差止命令法(Anti-Injunction Act )の法律に照らし、「時期が早すぎた」ようです。27日の二日目は、議会が国民に医療保険加入を強制し、2014年までに加入しない国民に対し、2015年の課税時期から罰金を科すことが合法的であるか否かの論議に集中しました。医療保険を国民に強制する権利が議会にあると主張するなら、保険に限らず健康上、推薦可能な他の製品の購入も強制することが可能なのかどうかという質問は政府の権限が無限に拡大することを懸念する一例です。これに対し、政府側の弁護団は、医療保険を義務づけることは、医療保険を加入することで、国民が積極的に国の経済に関与することを意味し「国の経済問題に関与する通商条項(Commerce Clause)に照らし、合法的である」としています。合法性の是非に関する論議に集中した2日目は、判事間の見解が二分したようです。

 最終日28日の最高裁の聴聞では、オバマ政権の医療改正法で加入者の増大が見込まれているメディケイド・プログラムを各州へ参加要請する条項が不当に強制されたものであるかどうかの論争が展開されました。メディケイドは1965年の社会保障制度の改正により制定されたもので、連邦政府と州の連帯資金プログラムとして、貧困ラインの低所得者で子供も含めて医療保険に加入できない国民を対象にした公的医療保険制度です。各州は独自の名称によるプログラムを準備し、その責任を担っています。また、1990年代から2010年まで数々の法制定により、メディケイドの規模は拡大し続けています。『Medicaid.gov』によると、現行のメディケイド制度は政府が財政の豊かな州にはその費用の50%、乏しい州には75%、平均57%を負担する助成金を各州に提供しています。子供用の医療保険プログラムを含めて現在約6000万人の低所得者がこの恩恵を受けています。(つづく)
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