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2012-03-21 06:53

橋下政治に見るヒトラー的「思想改造」の兆し

杉浦 正章  政治評論家
 筆者はかねてから大阪市長・橋下徹のヒトラー的な独裁傾向を指摘してきたが、ようやく言論界、政界から警鐘が鳴り始めた。朝日新聞が社説で、読売は主筆が、政党は自民党総裁が、異口同音に橋下の全体主義的な政治手法に批判の火の手を挙げている。朝日も指摘しているが、橋下政治には一般大衆の精神・思想改造につながりかねない危うさがあるのだ。ドイツの小説家トーマスマンがその著書で浮き彫りにしているように、ヒトラーの本質は、大衆催眠術的な思想統御にある。何よりも危険な側面なのだ。全国紙の、それも右と左の雄が一致して批判するのだから、危険な存在であることには間違いないのだろう。まず読売主筆の渡辺恒雄は、文藝春秋の論文で橋下が選挙について「選挙では大きな方向性を示して訴える。ある種の白紙委任だ」と発言したことについて、「私が想起するのは、アドルフ・ヒトラーである。ヒトラーは首相になった途端『全権委任法』を成立させ、これがファシズムの元凶になった。橋本発言が失言ではないとすれば、非常に危険な兆候だと思う」と述べた。老いたる言論人の健在ぶりを示した。近ごろの評論家はみんなの党のお抱えみたいなのが、橋下礼賛論を展開するなど、低レベルで事の本質を読んでいない。

 一方、朝日新聞は、2度にわたって社説で批判している。3月16日には社説「大阪の卒業式 口元寒し斉唱監視」で、橋下の友人で民間人校長として採用された大阪府立和泉高の校長・中原徹が国歌斉唱の際、口元の動きをチェックしたことを取り上げ、「そもそも卒業式で口元を監視することが、優れたマネジメントといえるのだろうか。卒業生を送り出す祝いの舞台が、校長の管理能力を試す場となっていないか。同僚の口元を凝視させられる教頭らの気持ちはどんなものだろう。教育者より、管理者の意識ばかりを徹底させていないか」と批判した。また2月20日の社説「大阪の条例、司法の警告受け止めよ」でも、同じ職務命令に3度違反した公務員はクビにする条例案について、「最高裁はいきすぎた制裁に歯止めをかけている。憲法が定める思想・良心の自由をどう考えているのだろう。やろうとしているのは、つまりは思想改造ではないか。」と指摘して戒めた。

 政治家では自民党総裁・谷垣禎一が、橋下政治を「政党政治が駄目だということで、昭和10年代に日本で軍部が出てきた。ヒトラー、ムソリーニが出てきた時もそういう雰囲気だったのだろう」と分析して、批判した。谷垣は地元京都で政党支持率が「自民25%、維新13%、民主10%」(読売調査)と維新が無視できぬ存在として台頭していることに、危惧を抱いたのだろう。自民党はこれまで橋下との距離をあいまいにしてきたが、谷垣発言は「対峙」への傾斜が見られる。橋下は、こうした批判にいちいちツイッターで反論しているが、総じて民放テレビのコメンテーター並みのレベルである。例えば渡辺の批判に対して、「渡辺氏の方が、読売新聞社だけでなく、政界も財界も野球界も牛耳る堂々たる独裁じゃないですかね」と述べている。これはコメンテーター、とりわけ半可通の女性コメンテーターの発言手法に似ている。本質をそらして、反論したように見せかけるまやかしだ。事実、2回同種の批判を女性コメンテーターから聞いた。渡辺は少なくとも「政界も財界も牛耳る」ほどの力はない。タレント上がりだけあって、橋下はテレビうけする発言をよく知っている。

 橋下の政治手法が危険なのは、マインド・コントロール的な色彩が見られることだ。全体主義の恐ろしさは「思想改造」にあるが、口パク監視にはその兆候が垣間見られるのだ。ヒトラー台頭著しい1930年、トーマスマンは「マリオと魔術師」でヒトラーを魔術師に例えた。魔術師は舞台から話術と、発言の繰り返しと、脅しと、すかしを交差に取り混ぜ、観衆を催眠状態に陥らせる。踊り出す者もいる。魔術師はヒトラーの弁舌そのままであり、「思想改造」の現場を見る思いがする。全体主義の本質を描写した名作だ。橋下の国歌斉唱における口パク監視の勧めは、まさにこの人間の精神面にまで入り込む危険性を内包したものに他ならない。橋下は巧みな弁舌でテレポリティクスを掌中に収め、また一見分かりやすいツイッターでウエブポリティクスも見事にこなしている。まさに大衆コントロールの現代版を成し遂げようとしているのだろうか。近畿地方の「大衆」はこれに踊らされているが、しょせんは現実政治の場では3か月で馬脚を現す政治手法である。3年前に似たような風が民主党に吹き、以来我が国は3年間の“政治空白”に直面している。後悔先に立たずである。近畿に吹く風は、そのまま吹き続けて国政に大量進出となれば、これこそ後悔どころか、もっと危険な側面を持つものであることを知るべきである。
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