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2012-02-20 06:50

増税大綱の決定で、与野党は攻守ところを変えた

杉浦 正章  政治評論家
 消費増税をめぐる戦いは、野田内閣が「税と社会保障の一体改革の大綱」を閣議決定したことで、にわかに攻守ところを変える形となった。新聞論調は自民、公明両党の硬直した増税協議拒否の姿勢を一斉に批判。自民党総裁・谷垣禎一は党内からも強い突き上げにさらされて、窮地に陥っている。自公両党とも解散・総選挙狙いの党利党略が前面に出すぎて、「さもしい」とうけ止められているのだ。両党の狙いが話し合い解散にあるのなら、堂々とこれを主張して法案の成立を図るべきではないか。副総理・岡田克也が2月19日のテレビで野田の消費増税への姿勢について「全くぶれていないし、変わっていない。今後頻繁にメディアに出て、国民を説得する」と述べた。確かに野田の姿勢は微動だにしていない。側近には「ここは愚直にまっしぐらの場面だ」と漏らしているという。一体改革がここで挫折すれば、日本経済の再生はあり得ないばかりか、海外のハゲタカファンドの絶好の餌食にされて、“日本売り”が始まる。野田の立ち位置は過去の首相の中でも、際だってすっきりしている。大義を握ったのだ。政調会長・前原誠司がNHKで国民新党の「増税に反対しながら、大綱に賛成した」論理矛盾を「めちゃくちゃな論理」と突いたのも、政権分裂覚悟の姿勢で潔い。

 一方で、ひたすら早期解散・総選挙を追い求める自公両党の姿勢が、あまりにも党利党略一辺倒でみすぼらしく見える。岡田が「そもそも2015年に10%にする方針は、自民党の公約。解散・総選挙ばかりを言うが、それでは選挙で消費増税を訴えるのか、訴ええないのか。万一政権を取ったら消費税を上げるのか、上げないのか。明確にすべきだ」と矛盾点を指摘したが、まさにその通りだ。今までは「閣議決定すらされていない」と協議を拒んできた谷垣は、大綱が決まっても「事前に密室で談合しろ、という意味ならお断りだ。国会で堂々と議論したい」と拒否の姿勢を貫こうとしている。次々にハードルを高くする発言は、もはや白々しさしか感じない。増税は「賛成だが、反対」では国民は自民党の政策を理解出来ない。谷垣は小沢一郎が増税反対なのに関して、野田に対して「出て行ってください」と言うべきだと、19日発言した。しかし、これは18日付朝日新聞の社説「もし、最後まで増税に反対する勢力がいるのならば、たもとを分かつしかない。首相には、その覚悟を強く求める」のコピーそのものだ。

 一党の党首が社説の受け売りでは情けないではないか。元首相・森喜朗がしびれを切らして批判したかと思えば、若手・中堅議員ら十数人が「リーダーシップを発揮せよ」と申し入れるといった事態が生ずるのも無理はない。自民党は大義を失った。何でも反対政党に変貌したのか。大綱決定に全国紙各紙は一様にこれをバックアップする社説を掲載した。朝日は「野党との事前協議が成り立たないのだから、政府・与党単独での大綱決定は当然だ」と主張。読売は「首相は国民の理解を広げるため、全力を挙げねばならない」と鼓舞している。これに対して自民党の姿勢については、朝日が「とりわけ自民党には失望させられた。消費増税の必要性を認め、当面10%という引き上げ幅も同じなのに、具体的な対案を示さない」と批判。読売も「自民党は、早期の衆院解散・総選挙を求めるだけで、与党との協議を拒み続けている自民党への支持は広がっていない。自民党の姿勢が党利党略と受け取られているからだろう」と看破している。

 このような世論の潮流は、民放の政治ショーでそのまま真似して引き継がれて、自民党が袋叩きに遭うといった状況だ。それでもひたすら自公両党は強硬姿勢を崩さない。なりふり構わぬ激突のコースをたどるつもりのようだ。自公両党首脳とも大局を見る目がない。このまま激突すれば、マスコミは政治の体たらくを批判し、政界全体の地盤沈下は覆うべくもなくなる。そこを狙って「危うい」大阪のハイエナや東京の核武装論者が舌なめずりをしているのが、全く分かっていないのだ。維新の会や石原新党は政界が揺れる間隙を縫って、政界での実績がゼロにもかかわらず、「風」だけに乗って、進出を図ろうというのがその基本戦略なのだ。しかし、もうこの国に出てはつぶれるパフォーマンスの新党など不要なのだ。自公両党とも、ここは与野党協議に応じて消費増税を与野党激突のテーマから取り除くべきだ。紛れもなく消費増税は、自民党の長期政権がもたらした財政危機に端を発しており、民主党と共同責任を負うべきものだ。国民向けに枝葉末節をとらえて、民主党による増税反対を唱えても、有権者はだませない。民主政権を倒すことが出来ても、総選挙では浮動票の迷走を招いて、この国の政治の混迷を増幅するばかりだろう。 
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