国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2012-02-12 00:18

(連載)イランは燃え上がるか(2)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 また、独裁体制が崩れたアラブ諸国の情勢変化による影響も、看過できません。イスラエルと国交を結ぶ数少ないアラブの国であったエジプトではイスラーム系政党が躍進し、これまでムバラク政権のもとで押さえ込まれてきた対イスラエル批判が、公然と噴出するようになりました。孤立感を深めるイスラエルでは、近隣の国、特にその核開発の主たる標的としてイスラエルを暗黙に想定してきたイランに対しては、警戒感が充満しています。アメリカとしてはパレスチナ問題で譲歩を迫る「見返り」として、イスラエルの警戒感を慰撫する必要に迫られているといえるでしょう。

 さらに、アメリカ、イラン双方の国内事情もまた、この危機を増幅させる要因としてあげられます。「アメリカ大統領選挙の年には戦争が起こりやすい」というジンクスがあります。大統領選挙を控え、国内世論向けに得点を稼ぐ手段として、戦争が活用されているという見方です。もちろん、アメリカ政府は否定するでしょうが、経済の失速と連動してオバマ政権への支持が低迷する状況があることは事実です。この状況下、国際的な危機に対応することが、政権にとってのプラス要素になることは言うまでもありません。つまり、イラン危機はオバマ政権にとって、政権浮揚のチャンスという側面も内包している、とみることに無理はありません。

 他方、イランのアフマディネジャド大統領にとっても、欧米諸国に強硬に対峙することには、国内的な意味があります。近隣諸国で独裁体制が崩壊するなか、イスラーム体制の護持を掲げる保守強硬派のアフマディネジャド大統領にとっては、欧米諸国との対立が自らの支持基盤である保守派からの支持を固める手段でもあります。また、保守穏健派でイラン最高指導者のアリー・ハメネイ師は以前から核開発に否定的ですが、欧米諸国による制裁という「対外的な脅威」を強調することは、アフマディネジャド大統領にとって、公式の立場上は抵抗できない最高指導者の意思を押し切る格好の口実にもなります。もちろん、これらの国内的な事情は推測の域を出ません。しかし、いずれにせよイラン、欧米諸国のいずれにとっても、実際に戦火があがる状況はリスクが高すぎます。正面から軍事衝突に至った場合、イランに勝ち目がないことは明らかです。とはいえ、核弾頭の有無はともかく、ミサイルがEU圏に届く可能性や、あるいは原油価格が天井知らずに高騰するリスクに鑑みれば、欧米諸国としても経済制裁で矛を収めることが最善の結果であることは間違いないでしょう。

 ただし、経済制裁が長引いても、それがイランの核開発を止める効果があるかには疑問があります。イラン産原油の輸出先は、22パーセントが中国、13パーセントがインド向けです。18パーセントを占めていたEU向け輸出がなくなっても、これらの制裁に消極的な国に流れることは、容易に想像されます。ところが、ここまでヒートアップしたなかで中途半端にけりをつけてしまえば、お互いに先ほどの「国内世論」の逆襲を受けることになります。欧米諸国とイランの政権担当者は、今まさに振り上げた拳の落としどころを模索している最中にあるといえます。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム