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2012-02-11 01:01

(連載)イランは燃え上がるか(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 イラン情勢の緊迫は、日本では案外話題になっていないように思います。しかし、これは日本経済にとってだけでなく、世界全体に大きな影響を及ぼす点で、欧州通貨危機なみの問題です。今回のイラン危機の発端は、昨年11月8日に国際原子力機関(IAEA)がイランの核開発疑惑を指摘した報告書を提出したことにあります。それを契機に、アメリカ議会は12月14日にイラン企業との取引に対する制裁を強化した法案を決議。さらに、12月31日にはオバマ大統領が、イラン中央銀行と取引のある各国の金融機関を、アメリカ内部で規制する法案を可決。アメリカで取り引きする全ての国が、アメリカの対イラン制裁と無縁でなくなったのです。イランが開発したミサイル「アシュラ」の射程圏内に収まるEU諸国も、基本的には制裁でアメリカと同調しています。11月24日にはフランスがイラン産原油の禁輸措置に踏み切ったほか、EUも経済制裁を次々と決定しています。

 この対立は、日本にとっても無関係ではありません。日本が輸入する原油の10パーセント強はイラン産です。他方で、イランから石油を輸入すれば、アメリカの制裁に引っかかることになります。1月12日、訪日中のガイトナー財務長官に対して、安住財務大臣はイランからの原油輸入を削減してきた「実績」を強調することで、日本の銀行に対してアメリカの先の法律の「例外規定」の適用を求めました。そのうえで、安住大臣は今後とも輸入に占めるイラン産原油のシェアを減らす考えを示しましたが、これが基本的には欧米諸国に軸足を置いた対応であることは言うまでもありません。

 これに対して、イランのアフマディネジャド大統領は核開発が平和利用目的であることを強調し、さらにIAEAの報告書が西側先進国の情報に基づいていると批判し、両者の対立は加速。12月上旬に米軍の無人偵察機がイラン東部で撃墜されたことも、火に油を注ぐことになりました。12月末には、ペルシャ湾のホルムズ海峡をイラン海軍が閉鎖する可能性についても言及し、さらに周辺海域で10日間の軍事演習を行いました。ホルムズ海峡が閉鎖されれば、世界の原油の7割近くが集中するペルシャ湾岸諸国の原油輸送に、深刻な影響が出ます。「原油不足」の懸念は、ただでさえ高止まり傾向のあるエネルギー価格を、さらに押し上げる効果があります。こうして、イラン危機は世界に影響を及ぼす火薬庫となったのです。

 イランの核開発疑惑そのものは、以前からあったものです。それがこの時期に急にクローズアップされたことには、イラン側から欧米諸国の「政治的意図」を疑う指摘があります。アメリカが支援していた皇帝(シャー)が打倒された1979年のイラン・イスラーム革命以来、イランと欧米諸国、なかでもアメリカとの間には根深い不信感がありますが、それだけでなく2010年末からの「アラブの春」で、中東・北アフリカ一帯の勢力図が大きく変わったことに鑑みれば、それは故のないことだと思います。シリアではアサド政権に対するデモと、政府・軍による弾圧の悪循環が続き、多くの死傷者が出ています。従来は身内に甘いアラブ諸国ですら、この状況はもはや看過できず、アラブ連盟がアサド大統領に退陣を求め、さらに国連安保理に問題を付託しようとしています。しかし、リビアと異なり、シリアの場合は欧米諸国も軍事介入に消極的です。それはアサド政権がロシアや中国だけでなく、核・ミサイル開発が進むイランとも友好関係にあるからです。つまり、欧米諸国によるイランへの強硬姿勢は、膠着するシリア情勢を打開するための「絡め手」としての側面もあるのです。(つづく)
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