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2012-01-27 00:37

(連載)「愚直」転じて「正攻法」に出た野田政権(2)

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 首相が国民の心情に訴えたもう一つの言葉は、最後の「むすびに」にある。そこでは次のように述べている。
 「私は、大好きな日本を守りたいのです。この美しいふるさとを未来に引き継いでいきたいのです。私は真に日本のためになることを、どこまでも粘り強く訴え続けます。今年は日本の正念場です。試練を乗り越えた先に、必ずや『希望と誇りのある日本』の光が見えます」
 「この国を築き、守り、繁栄を導いてきた先人たちは、国の行く末に深い思いを寄せてきました。私たちは長い長い『歴史のたすき』を継ぎ、次の世代に渡していかなければなりません」と。見事に国民の心情に訴える言葉である。

 であるならば、首相に問いたい。
 福島の再生の歩みはどうなっているのか。「原発事故の収束」を首相自らが高らかに謳いながら、事故の被害は止めどもなく広がっている。被災者の補償は遅々として進まず、復旧・復興も省庁の権限という壁に阻まれて、国難に対処する仕組みとはなっていない。「使い勝手」がいいはずの復興予算も、フタを開けてみれば親元の省庁の仕切りのままだ。平野復興担当相が怒ってみたところで、官僚は言うことを聞かない。
 「被災地に寄り添って」対応する政権だなどとは、とても言えない。原発の廃炉も「原則40年、例外は極めて稀」(細野原発相)とされながら、同じ政府から「20年の延長も可能」と、従来の原発稼動と何ら変わらない考えが打ち出されて、政府の方針が迷走している。首相の施政方針演説とは裏腹な政権の原発事故対応の実態をどう説明できるのか。

 首相の「原発事故収束宣言」以来、事故対応は明らかに事務レベルの仕事に変質した。政治主導がもっとも求められる事案なのに、政権は、別の道を歩み始めた霞が関の旧態依然たる官僚意識に目をつぶって、「精神論」を繰り返すばかりだ。
 日本はかつて「精神論」で国民を鼓舞し、破滅の道をたどった苦い歴史的経験を持つ。政治に指導力なく、観念論で国民を導くことの過ちを繰り返してはならない。民主党政権はいまだに政権運営の知恵のなさを露呈している。問題が表れるごとに対応策をどうにかまとめるが、政策に一貫性がない。「社会保障と税の一体改革」でも党内意見を集約できず、身内の対立を引きずったまま、ボヤけた政府方針で国会論議が始まろうとしている。
 消費増税の行方が全く不透明なのに、岡田副総理は「年金改革には更なる消費税の引き上げが必要だ」と、さらに議論を燃え上がらせるような発言をする始末だ。まるで、枯葉の広がる原野に火を放つような政権ナンバー2の政治感覚を疑わざるをえない。

 政権の中枢がこんな状態だから、党内は「誰が何を言おうと知ったことではない」といった雰囲気すら満ち満ちている。今さらとは思うが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加問題、日米関係に刃のごとく突き刺さっている普天間移設問題の迷走は、もはや収拾のつかない漂流事案になった、としか言いようがない。
 自らが出した法案の処理もままならない政権には、気合や精神論で修羅場を潜り抜ける力量はない。国民が政権に求めるのは、言葉や精神論ではない。国のあり方を具体的に示すことである。もちろん、官僚が下書きした国の将来像でないことは当然である。(おわり)
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