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2012-01-26 00:04

(連載)オバマ政権の「アジア回帰」戦略への疑問(3)

河村 洋  ニュー・グローバル・アメリカ代表
 オバマ戦略への国際的な反応にも言及したい。オバマ氏が中東とヨーロッパから兵力を削減したことで両地域に懸念が広がっているが、オーストラリアはアジア回帰を歓迎している。費用対効果が高く、小規模で迅速で柔軟な軍事力という考えは、特に目新しいものではない。ドナルド・ラムズフェルド元国防長官が主導したように、米軍の構造改革は冷戦後の重要政策課題である。問題は、オバマ政権の軍備削減があまりに急激なことである。ロバート・ゲーツ前国防長官が退任演説で明言したように、全世界での作戦要求を満たすためには軍事力の規模は維持されねばならない。オバマ氏による「アジア回帰」によって中国の政策形成者達は警戒感を強め、米中の地政学的競合では南シナ海が最重要地域となっている。

 新戦略で中国の拡張主義への警戒を強めることは間違いではない。しかし、中国の野心を食い止めるのはアジアを相対的に重視することではなく、アメリカの総合的な軍事力を強化することである。確かにオバマ氏が言う通り、同盟国も自らの国防力を強化せねばならない。しかし、F35戦闘機をめぐる現在の混乱が示すように、オバマ政権の国防政策は支離滅裂になっている。新型ステルス戦闘機が入手できないとあっては、同盟国はどのように自助努力すべきなのだろうか? さらに重要なことに、オバマ大統領は世界政治の基本構造とアメリカの役割について理解していないように思われる。

 そうした中で注目すべきはブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員が『ワシントン・ポスト』紙に1月6日付けで寄稿した論説で、「政策形成者達はグローバル化、アジアの台頭、欧米の衰退、イデオロギー競合の終焉などの新しい傾向に目を奪われ過ぎだ」と指摘している。そうした見方に対しケーガン氏は、「国際社会が現在かかえる課題の殆どは、長年にわたって関わってきたものである」と言う。「民主国家と専制国家の衝突は強まり、中東、北朝鮮、ミャンマーへの民主主義の拡大は今年の重要課題となろう。イラクとアフガニスタンでの長年にわたる戦争によってアメリカ外交に『非軍事化』の心理が働くようになったかも知れないが、ハードパワーの保護なくしてソフトパワーは働かない。リビア紛争では西側多国籍軍が民間人の安全を守った。またBRICSにトルコを加えたどの国も、アメリカとヨーロッパのように国際公共財を提供できない」とも論評している。ケーガン氏が述べている点は重要である。現在のヨーロッパ金融危機で問題解決の提言ができる新興諸国は皆無で、自分達の輸出市場の喪失を懸念しているだけの有様である。

 今年頭に公表されたオバマ戦略は一般に考えられている国際政治の変化にあまりに受動的に対応するのみで、F35のケースに見られるように支離滅裂なものになっている。マケイン上院議員が述べるように、必要な軍事力を削減する前に無駄な支出を見直さねばならない。オバマ氏の「アジア回帰」はアジアでのアメリカのプレゼンスの強化につながらないばかりか、国際安全保障でのアメリカの影響力を低下させるだけである。共和党は議会でこの戦略を修正できるのだろうか?オバマ氏の対立候補達は、新「国防戦略」を大統領選挙でどのように議論してゆくのだろうか?(おわり)
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