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2012-01-20 06:55

大平の消費税政局と酷似してきた

杉浦 正章  政治評論家
 消費税がきっかけとなった政局は、過去にもあった。1979年の「40日抗争」をはさんでの自民党内抗争だ。筆者は官邸キャップとしてつぶさに見たが、最近は当時の首相・大平正芳と首相・野田佳彦がダブって見えてくる。酷似点は「政治生命を賭けて」消費税をやろうとしていることだ。そして内閣不信任案に同調しかねない反対分子も、党内に抱えている。唯一異なるのは、大平が消費税を撤回したのに対し、“大平政治”を信奉している野田首相は消費税「死守」の構えであることだ。1979年10月の総選挙を前に首相・大平は、官邸キャップらを招いてカレーライスを食べながら懇談した。そこで突然大平は「一般消費税をやろうと思う」と言い出したのだ。9月17日の公示直前である。筆者は驚いて「選挙は大丈夫ですか」と聞くと、大平は「ああ、うう、愚直に訴える」と述べたものだ。これが消費税政局の発端であった。

 大平は発言の通り選挙告示の第一声で、確かに「愚直にも」消費税導入を訴えた。しかし、当時の世論は、大平の財政への危機感など全く理解せず、一般国民に至っては世論調査でも反対一色だった。自民党が行った選挙予測調査も「大敗」と出て、官房長官・田中六助らが撤回を進言。ついに大平も、大ぶれにぶれて、撤回した。しかし時既に遅く、総選挙は大敗で、過半数を割った。新自由クラブを抱き込んで政権は維持できたが、党内抗争の火蓋が切られた。福田赳夫らによる「40日抗争」だ。抗争は長引き、大平は「辞めよというのは、死ねと言うことか」と漏らして、政権にすがりついた。しかし、抗争は怨念の戦いとなり、翌80年の通常国会で野党が提出した内閣不信任案採決に、福田らが欠席して、可決されてしまった。大平は総辞職でなく、解散を選択して、参議院選挙とのダブル選挙になだれ込んだ。ところが選挙第一声で大平は異常に甲高い声で演説をして、筆者は持病の心臓発作は大丈夫かと直感したが、案の定その夜心筋梗塞の発作が起きた。大平は死去して、ダブル選挙は必ず勝つ「弔い合戦」となり、自民党は圧勝したのだ。

 民主党元代表・小沢一郎の最近の発言も、この経緯を念頭に置いてのものだろうと思える。18日も「こんなときに消費増税なんて冗談じゃない。何を考えているのか」と反対姿勢を一層鮮明にしている。何としてでも消費増税にストップをかけたいのだろう。しかし、野田は既にルビコンを渡ったのだ。賽(さい)は投げられたのを、小沢は理解していない。ここで野田が方向転換したらどうなるか。大平と全く同じで「選挙大敗」が目に見えているのだ。大平は方向転換した結果、消費増税に賛成する良識派まで敵に回してしまったのだ。小沢は、例え野田が方向転換しても、“どっちみち選挙に負ける”ことを知らずに、悪あがきしているのだ。その間の大平の心理状況について、首相秘書官だった森田一は日経のインタビューで「『しまった』という感じは見て取れたが、それは言わなかった。消費税を掲げたことに後悔はなかったと思う」と振り返っている。

 野田首相は、自他共に許す大平政治の信奉者だが、森田は野田から代表選挙前に「大平政治を目指したいので会いたい」という話があり、会食をしたという。この席で森田は「福田さんや大平のように大蔵省出身者で、蔵相をやって、首相になれば、事務当局に操られているといわれない。だが、そうではない人が財務相をやって、首相をやると、事務当局が操っているとみられる」と言うと、「私はすでに増税男と言われています」と言っていて、「そこはぶれないような感じだった」と述べている。大平の失敗を意識して野田はぶれないことが、これで分かる。だが、野田も大平同様に党内に敵を抱えている。不信任案が提出されれば、小沢グループなど反対派が賛成するか、欠席すれば可決されてしまう危うさがあるのだ。森田は「話し合い解散みたいな話で突破できるかどうかだろう。私の感覚では、解散が確約されれば、谷垣禎一総裁は党内を説得できるだろう」と述べている。野田が「小沢の福田化」を防ぐには、話し合い解散で小沢の裏をかくしかあるまい。時局は与野党反対勢力の動きが活発化して、神経戦の側面も出てきた。野田にかかる精神的な重圧は、相当なものがあると思われる。しかし野田の大平との違いは、若さと体力があることだろう。解散を選択しても「弔い合戦」にはなるまい。
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