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2012-01-12 06:53

小沢裁判、深まった「疑惑の心証」

杉浦 正章  政治評論家
 民主党元代表・小沢一郎の弁護団は、2日間にわたる被告人質問について「証言がぶれなかった」と無罪への手応えを感じているようだが、何を聞かれても「記憶にない」「秘書がやった」を繰り返させておいて、「ぶれなかった」もないものだろう。焦点は事件への小沢の関与を浮かび上がらせることが出来たか、裁判官に「疑惑の心証」を深めさせたかにある。その点では小沢は土俵際徳俵で体勢を辛うじて維持している状態だろう。「語るに落ちた」と言う言葉があるが、小沢の場合は「語らずに落ちた」という側面が濃厚だ。知らぬ存ぜぬまではいいが、いくらなんでも、今現在に至るまで「収支報告書は見たこともない」はあり得ないだろう。過剰防衛が裁判官の心証に作用することは間違いない。追及側の指定弁護士にしてみれば、もともと小沢が「秘書任せ」で逃げ切ると踏んできたのであり、裁判長以下3人の裁判官に「クロ」へと傾かせる材料を提供できれば十分な成果であったと言える。

 結果はどうかと言えばカネの流れの不透明さは一段と深まり、4億円もの大金の扱いを「すべて秘書任せ」であることの不自然さを浮き彫りにさせることに成功している。被告人質問で重要な点は裁判官が何を聞くかであろう。何を聞くかで裁判官の“気持ち”を推測できるからだ。裁判官の質問を分析すれば、事件のポイントとして感じているところは、市民感覚と同じと感じざるを得ない。3人の裁判官がそれぞれ順番に質問し、合計の質問時間は1時間を超えたが、その質問内容は土地購入資金4億円の原資に関する供述の二転三転、多額の現金を手元に置いておく理由、秘書に4億円をいつ返してもらえるか心配でなかったかなどであった。これに対して小沢は事前の弁護士との打ち合わせ通りに、「秘書任せで自らは関与していない」で押し通そうとした。途中「私の関心は天下国家の話で、それに全力で集中している。それ以外はすべて秘書に任せている」発言が飛び出したが、まずこれが裁判官の心証にマイナスの影響を与えたに違いない。いくら政務に多忙とはいえ、4億円もの巨額なカネの操作を秘書の独断で行わせることはない、と逆に思わせる虚飾性をもった発言だからだ。

 また裁判長・大善文男が「元秘書が深沢の土地の登記を平成16年から平成17年にずらしたと証言している。深沢の土地の登記をずらすという秘書の行動について、いまはどう思うか」と質したのに対し、小沢は「よかれと思ってやったことだと思う。彼らに対して叱るというたぐいの感情は持っていない」と答えた。あくまで「秘書独断」を貫いたが、大善はおそらく、小沢の指示なしには出来なかったと感じたに違いない。また大善の「元秘書の石川さんから経理処理の方法について報告は受けていないということだが、石川さんを呼んで経理処理について詳しく説明を求めたことはなかったか」との問いに、「特別、石川や池田を呼んだりはしなかった」と答えている。これも大金を扱う常識とは明らかに矛盾する。

 さらに4億円の原資について、前日、印税や議員報酬などを挙げたが、指定弁護士の指摘によれば、印税や議員報酬の払込口座から億単位の出金はなかった。加えて自分が原資を用意したにもかかわらず、利子を支払ってまで銀行から4億円の融資を受けたという、怪訝(けげん)きわまりない行動についても、小沢自身が自ら融資書類にサインしていることが明らかになった。これらの新事実は小沢の関与を濃厚に印象づけ、冒頭述べたように「語らずに落ちた」ものと推定しうることであろう。こうして、小沢の秘書一任戦略と知らぬ存ぜぬ答弁は“馬脚”を現していると見ざるを得ないのだ。こんごは2月に、焦点の元秘書らの調書を証拠採用するかどうかを経て、3月の論告求刑、4月の判決へと進むが、小沢にとって土俵際のうっちゃりは極めて困難になってきたと推測する。
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