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2011-12-31 00:40

(連載)国連の場から見た世界情勢(2)

兒玉 和夫  国連日本政府代表部次席常駐代表
 第四に、チュニジア、エジプト、リビア、イエメン、シリアにおいて生起しつつある政治革命への国連安保理の関与についてです。関与の度合いは、個別事案ごとに様々でしたが、基本的には、「国民の民意を反映した政治体制」への動きを一貫して支持し続けたという意味で、国連は、恐らく歴史の審判を受ける際には、正しいとされる側に立ち続けてきたと思います。これまでであれば、ロシアや中国が「内政不干渉」を理由に拒否権を行使することで国連安保理として一切行動を起こせない場合が多かったはずですが、今回は違いました。その最大の理由は、王政下の限定的な民主主義国家である湾岸諸国を含め全アラブ連盟加盟国(22ヶ国)の総意として、民意を反映した政治体制への変更を一貫して支持する動きがあったことが決定的に重要です。それ故に、リビアに対する国連による武力介入を容認した安保理リビア制裁決議1970及び1973は、ロシア、中国としても「棄権という形で容認」せざるを得なかったのです。

 両決議は、「紛争下における文民保護」という大義の下に、紛争下にあって、当該国政府が自国民保護の責任を果たせない場合に、国連が武力介入することを容認した国連史上最初の事案となりました。その後ロシアと中国は、棄権したことを後悔し、シリアに対する制裁決議案については、経済制裁であれ、頑なに反対を貫いています。シリアについては、安保理は機能不全に陥っていますが、国連総会は、安保理が採択しえなかった内容を含むシリア非難決議を採択しました。このことは、「アラブの春」が象徴したような「独裁・専制国家」における民主主義への要求を当該国の現体制が武力を行使することで抑圧しようとする場合には、国連として声を挙げないではおれなくなっている、方向としては国際社会の人道介入を阻止し得なくなりつつあると言って過言ではありません。

 第五に、中東・北アフリカ民主主義革命は、イスラエルの存在、或いは、「中東和平」の進展が進んでいないことをスケープ・ゴートにすることなく達成されたことも重要です。同時に、中東世界に議会制民主主義国が複数誕生したことは、「中東和平」進展に向けた圧力はより強まることをイスラエルは覚悟する必要があります。

 第六に、「アラブの春」は、国連における日本外交を強力に後押ししてくれました。拉致問題解決他、北朝鮮による人権侵害状況の改善・是正を求める「北朝鮮人権状況決議案」を日本政府はEUと共同で2005年以来毎年提出し、国連総会における賛成多数で採択を勝ち取ってきております。今月19日の国連総会において、これまでで最多の123ヶ国の賛成票(昨年比17票増加)を得て採択されました。リビア、チュニジア両国に支持を働きかけた際、「新生リビア」、「新生チュニジア」が拉致問題解決を求める国連決議に賛成するのは当然の責務であるという回答を得たときは、「アラブの春」が日本外交への追い風になったことを実感できました。来年こそは、拉致問題解決を含め、日朝関係の歴史的打開を期待したいと思います。なお、本稿の内容は、著者の個人的見解である。(おわり)
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