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2011-12-09 13:00

(連載)大阪ダブル選挙の結果についての考察(3)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 そのなかで、それ以前はいずれの政党からも問題として認識されてこなかった政策課題を政治の場に持ち込むことも稀ではありません。「国民戦線」の移民排斥や、「緑の党」の原発廃止は、その規範的評価はともかく、あらゆる政党が等閑視していた課題に対する、多くの人の漠然とした不満や不安を吸収したものです。フランスやドイツでは、これらが勢力を拡大させた結果、既存政党もこれらの課題について触れざるを得なくなりました。その意味で、ポピュリズムを単に情動的とか非合理的といって片付けようとすること自体、エリートの無謬性を強調する議論に他ならないと言えるでしょう。

 ただし、ポピュリズムは「友-敵」関係を強調することで勢力を拡張させるため、宿命的に善悪の二分法に陥りがちです。その「友-敵」の線引きは内部にも向かうため、ポピュリズム運動は絶え間のない内部分裂を繰り返すことになります。また、既存の政党を否定して政界に進出すれば、当然のごとく自らも政党化せざるを得なくなり、「反政党」としての求心力は損なわれることになります。つまり、ポピュリズムと呼ばれる運動のほとんどは、既存の秩序の一部となって生きながらえるか、分裂の挙句に消滅するかのいずれかの道をたどってきました。これが、タガートのあげたポピュリズム最後の特徴、「その短命さ」です。

 繰り返しになりますが、ポピュリズムそのものは十全でない政党の利益表出能力が生む、議会制民主主義に必然の現象です。そして、それが提起する政策課題が、少なからず多くの人々の日常的な不満や要望を反映した側面があることも否定できません。ただし、ポピュリズムは「彼ら」に対する無条件の敵意を求心力とするため、社会の中に分裂を生みやすく、さらにその方針はいきおい破壊的にならざるを得ません。破壊の先に繁栄があるという保障はありません。ポピュリズムは常にリスクと隣合わせなのです。

 そして、そのようなポピュリズムは、議会制民主主義にとっての試金石でもあります。つまり、ポピュリズム運動で爆発的に広がった要望や意思が、既存政党に吸収され、従前の議会制民主主義に取り込まれることで、ポピュリズムは衰退してきました。他の政党がより穏健な、しかし厳格な移民政策を導入したことで勢力を衰退させたフランスの「国民戦線」は、その象徴です。いわば、ポピュリズム運動がもたらした過激な政策要望を他の既存政党が吸収し、より穏健化させて建設的な政策立案に昇華させられるならば、議会制民主主義そのものは健全に機能し続けることができるのです。この観点から、橋下氏と「維新の会」が示した「大阪都構想」に対して、既存政党がどう対応するかを注視することが必要になってくるのです。(おわり)
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