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2011-12-08 10:48

(連載)大阪ダブル選挙の結果についての考察(2)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 ただし、ポピュリズムは強固で一貫したイデオロギーを備えているわけではありません。そのほとんどは、「普通の人々」としての道徳的優越感に加えて、大規模な社会変動に起因する危機感と、ここから派生する理念化された共同体への郷愁を求心力にします。金融危機や移民の急増といった社会変動に直面したとき、多くのひとは危機感を募らせます。これがポピュリズムの母胎となるのです。ティーパーティーが「古き善きアメリカ」をイメージ化するように、あるいは「国民戦線」が「白人キリスト教徒の共和国」たるフランスをイメージ化するように、ある特定の時期の社会を理想化し、そこへの回帰を求めることで勢力を拡張したことは、その典型例です。

 これらを踏まえて今回の大阪ダブル選挙をふりかえると、橋下氏のポピュリストぶりが浮き彫りになると思います。府知事就任以来、とにかく橋本氏は地方官僚たる府職員を批判し続けました。さらに、現在の中央-地方関係を掌握する霞ヶ関の中央官僚や、永田町の国会議員もまた、批判の対象になりました。もちろん、現在の日本の統治構造に何の問題もないとは言えません。他方で、政府や府職員を集中的に批判することで、橋下氏は「『彼ら』に立ち向かう『普通の人々』の味方」のイメージを定着させていったことも、確かだといえるでしょう。今回の市長選挙で、民主党や自民党をはじめ、常日頃は独自候補にこだわる共産党までが平松候補を応援したことは、結果的には橋下氏の「反政党」、「『普通の人々』の味方としてのイメージ強化に繋がりました。

 そして、橋下氏の代名詞ともなった「大阪都構想」もまた、そのポピュリズムの賜物といえます。たまに帰省すると、大阪の衰退ぶりは顕著です。もちろん、今も西日本の中心地であることは確かですが、昔日の面影はないように思います。NHKの朝ドラ「カーネーション」の舞台である岸和田市には、私の母校があります。かつて、大阪南部(泉州)は繊維産業で栄え、戦後復興を支えた根拠地の一つとなりました。私の子ども時代、実家の周辺にはタオルや毛布を織る工場が立ち並び、機織り機械の音がやかましく響いていました。しかし、現在は中国製品に押され、いまやほとんどの工場は閉鎖され、マンションか駐車場になっています。かつて景気のよかった時代を懐かしみ、その再生を願う点で、大阪市のみならず大阪府全体が、日本中のどこにも増して、特定の一時期の社会への回帰を願う素地があるといえるでしょう。

 産業の構造転換に遅れたという意味で、長期化する閉塞感に加えて、昨今の金融危機です。これらの社会変動に対する大阪の人々の危機感が、その状況に有効な手立てを打てているように見えない府・市への不満が、既存の政党の枠組みに囚われず、「彼ら」への露骨な敵意を示し、景気がよく、東京と張り合っていた頃への大阪への回帰を叫ぶ橋下氏への支持に傾いたとしても、不思議ではないでしょう。つまり、大阪の人々が「大阪都構想」を受け入れたとすれば、それは未来志向というより、多分に「回帰」のニュアンスが強いように感ぜられます。いずれにせよ、「維新の会」への支持が、いわゆる「無党派層」に目立ったことからも、既存の秩序そのものに対する敵意を吸い上げることに、橋下氏らが成功したことは確かです。言ってみれば、ポピュリズムとは大利益集団や官僚制度によって支えられる既存の議会制民主主義に対するアンチテーゼです。量的マジョリティである「既得権から排除された人々」を糾合し、多数派であることを最大の武器として、既存の秩序に転換を迫るパターンにおいて、多くのポピュリズム運動は共通します。(つづく)
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