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2011-12-07 12:10

(連載)大阪ダブル選挙の結果についての考察(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 海の向こうのエジプトやモロッコに目を向けている間に、大阪のダブル選挙で「維新の会」が圧勝し、橋下徹前知事が市長に当選しました。大阪府で生まれ、大学入学まで過ごした私としては、やや複雑な感が否めません。今回のダブル選挙は、日本におけるポピュリズムが一つのピークを迎えたことを示しています。日本では一般的に、渡邉恒雄読売新聞主筆を中心に、ポピュリズムに「大衆迎合主義」という訳語をあて、その情動性や非合理性を強調する論調が支配的です。無論、これらの側面は否定できませんが、ポピュリズムを単に「台所の政論」のように扱って済ませることは、その本質を見誤るだけでなく、むしろその本質を覆い隠す議論になりがちです。ポピュリズムについては、拙稿「ポピュリズムの理念的枠組み:自由主義との対比を中心に」『カルチュール』(2007、明治学院大学教養教育センター付属研究所)をご参照ください。

 P.タガートによると、ポピュリズムを解明する要点は、次の5つです。(1)代表制への敵意、(2)理念化された過去の共同体への憧憬と「普通の人々」の道徳的優位性、(3)状況に応じて様々なイデオロギーに染まるカメレオン的性質、(4)大規模な社会変動に対する危機感、(5)その短命さ、の5つです。世界各地におけるポピュリズム運動としては、例えば移民排斥を訴えるフランスの極右政党「国民戦線」や、原発廃止と環境保護を訴えるドイツの「緑の党」を、その典型としてあげることができます。また、減税を訴えるアメリカの「ティーパーティー」や、逆に格差解消を訴える「ウォール街占拠運動」もこれに加えてよいと思います。その主張内容は一見バラバラですが、これらの組織・団体には、以下の点で共通しています。

 これらはいずれも、複数政党制に基づいて定期的に選挙が行われながら、大企業や労働組合、さらには宗教団体といった動員力・資金力のある組織の利益が優先的に表出し、それらに属さず、自らの利益が政治に反映されにくい階層・集団が、議会制民主主義そのものに敵意をもつに至ることで生まれました。多くの場合、その敵意は、議会制民主主義のもとでエリート、あるいはエスタブリッシュメントの地位を占める政党(議員)、大企業や労働組合などの大利益集団、そしてその政府を支える官僚に向かうことになります。そして、「政治と無縁の『普通の人々』である我々(we)」が「政治にまみれている彼ら(they)」より、道徳的に優れており、その意思を政治に反映させることで、より「善い」社会が生まれるはずだと強調します。

 つまり、理論的には政党は社会の多様な利益を吸い上げ、それを議会という政治的意思決定の場にもちこむという、いわば国家と社会の架け橋の役割を担うべきものです。しかし、現実には特定の組織・団体が動員力・資金力を背景に、議員や政府の行動を大きく左右しています。これは政権交代を経ても、オバマ大統領が大企業を擁護せざるを得ないことに象徴されます。その結果、これらの巨大利益団体に属さない階層・集団は、政治的な無力感を味わうことになり、「彼ら」に対する憎悪や敵愾心を募らせ、議会制民主主義そのものを否定する主張を、多くの場合は議会制民主主義の手法にのっとって展開することになります。いわばポピュリズムとは、政党の利益表出能力が十全でない限り、議会制民主主義が必然的に生み出す「鬼っ子」といってよいでしょう。(つづく)
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