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2011-12-07 06:52

「致命的」と思わぬ一川の存在が「致命的」

杉浦 正章  政治評論家
 暗愚もここまで来ると「馬鹿に付ける薬はない」ということになる。防衛相・一川保夫が自らの責任について12月6日、「致命的なものは無い」と弁解したが、「致命的なものがないと思う発想が致命的」であることが分かっていない。自らの発言が及ぼす影響をこれほど理解していない閣僚は、はじめてお目にかかった。ただでさえ不可能な普天間移転など、かすみの彼方に飛び去ったと言わざるを得まい。防衛省は、閣僚も幹部も伝統的にまさに「失言のデパート」だ。背景には、保守対革新の安保論争や憲法9条論争があった。従って、過去には理念・信条に根ざす発言が問題となるケースが多かった。1993年の中西啓介の「半世紀前に出来た憲法に後生大事にしがみつくのはまずい」発言や、2007年の久間章生の「原爆投下はソ連の参戦を防ぐためにしょうがない」発言が、その典型であろう。しかし、一川の場合は、自らの「防衛素人」発言が物語るように余りに安っぽくて、まるで「失言の100円ショップ」だ。

 沖縄防衛局長の発言は、書くだけでもペンが穢れるから書かないが、一川の失言シリーズは、就任早々から始まった。まずは「安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロール」発言。次いで、国賓のブータン国王夫妻の宮中晩餐(ばんさん)会を欠席して、政治資金パーティーに出て「こっちの方が大事」。局長の暴言に関連して、「重荷を背負った」。普天間移設の原点にある米兵の少女暴行事件を「ランコウ事件」といった具合だ。問題は、政府・与党首脳が一川をかばうことに原因がある。首相・野田佳彦が「一川氏と一丸となって、沖縄の理解を得る努力をする」と“過剰擁護”すれば、幹事長・輿石東は「辞める必要ない」と断定。これでは一川も「野田総理らから激励を受けた」とますます自信を持ってしまうのだ。「豚もおだてりゃ、木に登る」となる。「致命的なものがない」発言もここから出た。

 しかし、致命的なものはありすぎて困るのだ。まずルーピー鳩山が毀損した沖縄との関係にダメ押しの一撃を加えた。一川が陳謝に訪れても、知事がわずか8分しか会談せず、名護市市長の稲嶺進からは「担当閣僚の任にあるべきではない」と更迭論が出るほどである。沖縄は、もはや感情的な反発で凝り固まっており、何を言っても聞く耳を持たなくなったと言ってよい。したがって、もともとアメリカ向けのアリバイ作りに過ぎない環境評価書を、たとえ年内に沖縄県知事・仲井間弘多に提出できても、仲井間が受け取るかどうかが問題となる。受け取っても意見書は「ノー」となることが確実であろう。それにもかかわらず、辺野古埋め立を強行すればどうなるか。ピケを張った老人に死人でも出れば、もう終わりだ。

 要するに、普天間移転は実現しない方向にむけて、一川の存在が決定的な材料となったのだ。一川が「もともと駄目だから、致命的なものではない」と思っているとしたら度し難い。南スーダンへの自衛隊の派遣が決まったが、自衛隊員にしてみれば、このようなトップの激励を受けて、命がけの任務に就くのでは、たまるまい。すべては野田の“邪心”に根ざすことでもある。一川を守れるところまで守ったふりをすれば、消費増税でおかんむりの小沢一郎の覚えがよくなるという一点に尽きる。問責決議が成立した場合には、自らの手を汚さずに早晩辞任させることが出来ると踏んでいるのだ。ことはアメリカへのアリバイ作りだけでなく、小沢へのアリバイ作りとなっており、これではまっとうな御政道は成り立たない。
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