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2011-11-27 00:35

(連載)米国のアジア太平洋進出とTPP関与の真意(2)

島 M. ゆうこ   エッセイスト
 米国がTPPにおいて目指す方針には「労働者、環境、知的所有権、イノベーションの強力な保護」や「情報技術の自由な流れの促進、グリーン・テクノロジーの拡大及びそれに伴う規制システムの強化」が含まれています。米国政府のTPP関与は、米国の経済及び政治戦略の焦点がいまやヨーロッパ・中東地域からアジア・太平洋地域にシフトしたことを意味しています。TPP交渉は米国が主導権を持ち、TPPの最終的条件は米政府と米議会が決定はするとしているものの、交渉の妥結にはすべての参加国の協力と同意が前提になっており、日本国内の反対派が抱くイメージよりはもっと民主的なプロセスとなるはずです。米国政府がTPPに関与する目的を一口で言えば、「環太平洋地域の経済統合」だと思います。オバマ政権は、この地域が米国の輸出と雇用を増大し、参加国全体の経済活性化に繋がるとアピールしています。オバマ大統領は、世界の第3位の経済大国である日本の参加は、他のアジア諸国へのインセンティブにもなる為、「野田首相は日本の製品とサービスを交渉のテーブルに並べる約束をした」と解釈し、TPP参加を強く促しています。

 11月9日の『イースト・アジア・フォーラム』によると、ニュージーランドのオークランド大学のコリー・ウォレス教授は「日本では、TPPが日本にどういう意味があるかを理解している人が少ないにも関わらず、反TPPの風潮が問題になっている」と指摘しています。日本の一部の反対派が「強制されるのでは」という恐れを抱く必要はない理由を次ぎの通り説明しています。(1)総括的なTPP協議は多国間交渉が伴うため、潜在的に不利な局面に対して、バランスを保ち、パートナーとなってくれる多くの国を日本は見出すことができるはずである。(2)日本にとって国益に反するのであれば、交渉から撤退すればよく、撤退によって失うものは少ないはずである。(3)日本政府は、如何なる変更に際しても充分に対応する時間がある。(4)TPP交渉に参加することが普天間問題のプレッシャーを緩和し、外交的に米国をなだめる好ましい方法となる。(5)日本のTPP交渉参加は、他の参加国の本質と影響力を見抜き、東アジア内で日本が将来果たすべき役割を考えるよい機会となる。

 ウォレス氏と同じ大学の教授でTPPの専門家として知られる、ジェーン・ケルシィ教授も、日本はとりあえずTPP交渉に参加し、最終結論を慎重に行うのが賢明だ」とアドバイスしています。また、日本の国会議員のほぼ半数が、主権の擁護、自給自足、震災地復興の優先、中国との関係重視などを理由として日本のTPP参加に反対している状況を見て、「野田首相はリスクの高い決断をした」とコメントし、「日本は米国の外交政策に深く関与すればするほど中国との緊張が高まる可能性がある」と指摘しています。さらに「日本は、交渉国として受け入れられる前に参加各国と個別に対話し、すべての現存国のコンセンサスと支持を得る必要がある」とも述べ、「日本は、全ての交渉に完全な同意を得るまでは、基本的には最終的決断をせず、リスクを避けるため守備の構えで必要なプロセスを踏まえる」ことを提案しています。

 結論として、米中双方が米国の軍事力の優位性は認めており、双方が同様に「米中間の紛争はありえない」と明言しています。冒頭で述べたような米国の中国に対する陰謀説らしきものが浮上したとき、Why and how?と考える必要があります。過去60年間何らかの大義名分を見出しては世界のリーダー・シップの地位に固執してきた米国が、グローバル経済の崩壊に伴い、世界のスーパー・パワーの位置を失いつつある現状で、クリントン国務長官の声明で明記されたとおり、「後退より前進」を選択したその結論がアジア太平洋進出であり、TPP関与は、その最たる物であると思います。包括的で複雑な国際経済及び外交問題であるTPPへの日本の参加は、その利点、特に数値的メリットが明白に見えてこないため、世論を二分しています。日本の経済状況もほぼ米国と同じで、特に震災後、経済および社会的状況は緊迫を極め、非常に苦しい局面に遭遇し、また重大な岐路に立たされています。米国が提起したTPP問題に関しては、日本の指導者は様々な憶測や疑惑、また反TPPの風潮や極端な否定論に惑わされることなく、TPP交渉に前向きな姿勢を見せながらも、最終決定には冷静で慎重であって頂きたいと思います。(おわり)
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