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2011-11-22 09:37

(連載)突破口見えない野田TPP外交(2)

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 野田首相は11月16日の参院予算委で、米側の発言訂拒否に不快感を表しながらも「再度訂正を求めることはない」と明言した。「これ以上、日米間の食い違いに触れたくない」という気持ちが手に取るように分かる。首相にすれば「これ以上事を荒立てたくない」との思いからだろう。だが、首相を追及する流れは収まりそうにない。同日の委員会で「交渉参加に向けた協議は、TPP参加の前提か、否か」などと問われたが、首相は答えようがない。「前提だ」などと言おうものなら反対・慎重派はさらに騒ぎ出すだろうし、「前提でない」と言ったら国内の推進派だけでなく、TPP参加に好意的な国、とりわけ米国を刺激することは間違いない。

 首相はアジアの可能性・成長性、そして日本経済の活性化には、当面TPPへの参加、中長期的には2020年までにアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現を目指してわけだから、今さら「前提」があるなしではない。さらには米政府が強調するように、TPPは純粋な貿易問題ではなく、極めて政治的で戦略的な連携・協調を目指すものだ。具体的には、強大な軍事力を伴って影響力を増す中国をにらんだ米国の世界戦略と位置づけられる。日米関係を外交の基軸とし、日米同盟の深化を事あるごとに念押しする日本政府に「TPP不参加」や「協議からの離脱」という選択肢はないと見ていいだろう。

 日米首脳会談、およびAPEC首脳会議でのTPP論議のシナリオは周到に準備された。ところが、このシナリオが狂った。野田首相が「TPP交渉参加の表明」を政権内の強い異論で1日延期し、渡米前日も終日国会で野党の猛攻撃に晒された。結局首相は、国会の答弁をあいまいにしたまま、12日夜の記者会見で「TPP交渉参加に向けて協議を開始する」と、反対派に配慮を示しただけで日本を発ち、日米首脳会談に臨まざるをえなかったのである。露払いでハワイに乗り込んだ玄葉外相がクリントン米国務長官への説明に窮したのは明白だった。

 国内態勢もままならない首相を迎えた米国が日本に突き付けたのは、米国産牛肉の輸入規制撤廃、自動車市場の開放、日本郵政の優遇見直しの3分野を日本との事前協議で話し合おうということだった。3分野は対日要求の柱だが、米側はこれらも「課題の一部にすぎない」と言うから、米通商代表部(USTR)の態勢は準備されたと見るべきだろう。友好的だが、最も強硬な米側の窓口がUSTRに一本化されているが、日本は21分野がそれぞれの担当官庁に分かれており、交渉力が見劣りするのは明らかだ。首相は「戦略室」で省庁横断的な態勢をつくると言うが、省庁間調整に手間取ることは避けられない。首相は、各国と協議する自由化の対象については「国益を百パーセント損ねてまで参加することはない」と断言するが、そんなことは言うまでもないことだ。ただ、首相が言う「国益」がどんな中身なのかは具体的でない。例えば、日本が世界に誇る公的保険制度については「やるわけがない」「あり得ない」と全面的に否定したが、農業問題では「美しい農村を守る」と言うだけで、コメの関税をどうするのか、自由化の「例外」とするのか、は明言しなかった(15日の参院予算委)。 (つづく)
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