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2011-10-12 20:41

(連載)焦点が定まらない野田政権(1)

尾形 宣夫  ジャーナリスト
 埼玉県朝霞市に予定していた国家公務員宿舎の建設凍結は、いかにも政権不慣れな野田内閣らしい“答え”の出し方だった。 鳴り物入りの事業仕分けで「凍結」としたが、首相は国会で「(全国的な公務員宿舎計画を精査したら)朝霞宿舎は必要な宿舎だった」とか「(宿舎着工を)変更するつもりはない」と野党の追及を突き放した。にもかかわらず、なぜ首相が一転して「凍結」としたのか。

 朝霞宿舎の工事現場を視察した首相は、たった10分の説明を聞いていとも簡単に「国民の意見を聞いて自分の判断を固めた」と語り、官邸に戻ると安住財務相を呼んで「少なくとも東日本大震災の集中復興期間の5年間は凍結」だと指示したという。財務相も現金なものだ。首相の指示に抵抗するでもなく、国会答弁で中止・凍結を迫る野党に反論したことなど忘れたかのように首相判断を評価、さらに千代田、港、中央の都心3区にある国家公務員宿舎についても廃止・売却、さらには幹部級の宿舎は建設しない方針も確認した。朝霞宿舎は5年の凍結ではすまないだろう。財務相も「中止の選択肢はある」と言い、首相もこれを認めたくらいだから、よもやよみがえることはないだろう。

 首相、財務相の手のひらを返すような変わりようにも驚くが、大震災の復旧・復興や先進国最悪の財政状況を考えれば、公務員宿舎建設などが無傷のまま実施計画にあったこと自体が信じ難い。「徹底的な無駄の削減」などはよそ事のようだった。野党が追及しただけではなく、与党内にも「朝霞着工」に反発する空気は強かった。世論の指弾があったから凍結したと言う首相の言葉もいただけない。もし世論が黙っていたら大震災対応があろうが、財政問題が心配でも予定通り着工したのだろうか。国民目線を大切にする野田政権にしては、あまりにも原点を忘れた発想だとしか言いようがない。

 朝霞宿舎については、「まちづくりの観点」からも必要だと言ったが、これなどは、いかにも取ってつけた理由だ。貴重な緑をなくしてまちづくりなどはあったものではない。まちづくりの基本をもっと勉強してもらいたい。東京都区内だけで国家公務員宿舎は436カ所、約2万戸もある。周辺の民間住宅に比べても家賃は半値以下の格安だ。住宅難の今日、どうして国家公務員だけが良質な住環境を手にできるのか、と誰もが疑問を持っている。公務員宿舎建設計画の見直しで、民間業者から発注済みの資材や人件費で損害賠償が当然出されるだろう。方針の変更で政治も行政も自らの懐を痛めることはない。政治・行政の無策は、結局国民にツケが回されるという教訓が朝霞宿舎問題でまたも明らかになったのである。 (つづく)
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