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2011-09-27 12:54

(連載)オバマ政権の外交成果をどのように評価すべきか?(1)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 来る大統領選挙を考慮すれば、今やオバマ政権の外交政策を採点すべき時期である。現段階ではアメリカの有権者は国内経済に目を奪われがちである。しかし9・11事件10周年が有権者を目覚めさせるかも知れない。実際にこれと前後するかのように、中東では「パレスチナ国家」の国連加盟、パキスタンによるテロ支援疑惑、そしてイランの核開発進展といった問題が起きている。また、ロシアではウラジーミル・プーチン首相が2012年の大統領選挙への再出馬を表明した。こうして世界から突きつけられる課題にオバマ大統領は対処できるのだろうか?国内経済でもオバマ政権の評価は芳しくない。『ワシントン・ポスト』紙とABCニュースが共同で9月初頭に行なった世論調査によると、経済が好転したと答えたのは17%だけである。米国民はオバマ大統領に次期も大統領職を任せられるのだろうか?そうした中で注目されるのが、ジョン・ボルトン元国連大使が『ナショナル・レビュー』誌に9月19日付で投稿したオバマ外交への批判論文である。この論文は9・11の影響と次期大統領選挙を考えるうえで絶好のタイミングに投稿された。

 ボルトン氏はこの論文で「オバマ大統領は単純・素朴で、外交政策への関心を欠いているために、アメリカと同盟諸国への脅威の増大を促している」と批判している。ボルトン氏によると、オバマ氏は国際公共財の提供者という覇権国家としてのアメリカの役割に謝罪姿勢で、「大統領としての仕事ぶり全般に共通するように、オバマ氏は安全保障においても、イデオロギー、ナイーブさ、弱さ、指導力の欠如、知的怠慢、交渉そのものに対するほとんど宗教的な信念が絡み合った欠陥を抱えている」と述べている。さらにボルトン氏は「オバマ氏は国内の経済と社会の再編成にあまりに多大な労力を注いでいるので、外交について是非もなく関心を抱くのは、アフガニスタンへの兵員増派やオサマ・ビン・ラディン襲撃といった彼自身が緊急の必要性があると認識する場合に限られる」と指摘する。私は、オバマ氏の就任当初の演説からそうした問題は見られたことを述べたいが、メディアは「ブッシュ時代の一国中心主義」から「謙虚な多国間協調」への「チェンジ」を称賛した。私は「脅威の排除なしには、アメリカが自国の経済的繁栄と国内の安定を享受することはできない」と強調したい。アメリカ自身がパックス・アメリカーナという自由主義世界秩序がもたらす国際公共財の受益者なのである。

 非常に興味深いことに、私はボルトン氏が「アメリカの内政と外交に関するオバマ氏の視点には、ある種の相互関係がある」と言及していることに注目を呼びかけたい。オバマ氏は社会保障改革に見られるようなアメリカ社会の変革に熱心なように、世界でもポスト・アメリカ時代の展望を視野に入れている。ボルトン氏は「世界の中でのアメリカの特別な役割を信じていないオバマ氏は、フランクリン・ローズベルト以来のどの大統領とも全く似ていない」と言う。アメリカという国への自信をそこまで欠いていることを考慮すれば、私は2008年の大統領選挙でメディアがオバマ氏を「黒いケネディ」とまで絶賛した理由を理解しかねる。考えてもみて欲しい。ジョン・ケネディは世界の中でのアメリカの指導的役割に対してもっと肯定的であったが、オバマ氏はそれに対して非常に謝罪姿勢なのである。サッチャー元英国首相の外交政策スタッフであったナイル・ガーディナー氏は、そうした言動を見るに見かね、オバマ氏が大統領に就任して半年ほどの時期に『デイリー・テレグラフ』紙で「アメリカのためにも謝罪外交をやめるように」と主張した。

 では、特定の脅威と政策課題について議論し、オバマ外交の影響に評価を下してみたい。オバマ氏は「核なき世界」に向けて野心的な行動を提唱した。昨年ワシントンで開催された第1回核セキュリティー・サミットはメディアから劇的な注目を集めた。しかし、ボルトン氏は「オバマ氏が交渉に固執しても、イランと北朝鮮の核保有の野望に歯止めはかかっていない」と批判する。この9月にはイランが新たに高濃縮ウランを抽出できる遠心分離施設を建設し、核不拡散の専門家の間で深刻な懸念を呼んでいる。北朝鮮も自国の弾道ミサイルに装着するための弾頭の小型化で進展を見せている。ボルトン氏はこうした事態に対し「両ならず者国家とも自国の核開発のために時間稼ぎをさせてもらったようなものである」とまで述べている。中国とロシアに対するオバマ氏の融和姿勢も由々しきことで、それはこうした姿勢が現在のアメリカの「相対的な衰退」という議論と深く関わっているからである。オバマ氏はポーランドとチェコからミサイル防衛システムを撤退させた。また台湾へのF16戦闘機の輸出も撤回した。その結果、ロシアと中国はそれぞれが旧ソ連と東アジアでの支配的な地位を当然視するようになった。特に南シナ海と東シナ海は天然資源をめぐる紛争と中国海軍の接近拒否能力の向上によって重大な懸念が抱かれる地域となっている。(つづく)
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