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2011-09-21 10:00

(連載)中国で中国の対アフリカ政策を考える(2)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 とはいえ、中国のアフリカ進出に対する欧米諸国の批判を、そのまま受け止めることにもまた、慎重であるべきと思います。ダルフール問題のように、中国がアフリカでの人権侵害に寛容であることは、確かです。しかし、政府による大規模な人権侵害はスーダンだけでなく、赤道ギニア、カメルーン、チャドなどでも日常化しています。ところが、これに関して欧米諸国は黙して語りません。端的にいえば、これらの国がやはり産油国で、しかも現政権が欧米諸国と外交的に良好な関係を築いているからです。

 チャドでは2006年以降、隣国スーダンに拠点をもつイスラーム過激派が散発的に流入し、デビー政権に対して敵対的な武装活動を行っていますが、この掃討作戦にフランス軍が支援を行っています。国民を武力で弾圧する点において、バシールやカダフィと、デビーの間に大きな違いはないはずですが、後者に対して欧米諸国は寛容です。これに鑑みれば、中国の“win-win”と同様、欧米諸国による「人権擁護」もまた、国家利益をコーティングするレトリックに過ぎない、というと言いすぎでしょうか。

 いずれにせよ、19世紀から、あるいはそれ以前から、アフリカを縄張りにしてきた欧米諸国、特にヨーロッパ諸国にしてみれば、中国の進出が脅威に映ることは確かです。これが、中国による進出の暗部を強調する論調が目立つようになっている背景としてあることは、否定できません。その一方で、これら欧米諸国の論調にそのまま従うことが、日本にとって望ましい方向性であるとは思えません。繰り返しになりますが、中国のアフリカ進出には弊害もあります。しかし、その一方で、労働者も大量に連れて行く中国の国営企業はともかく、アフリカへ進出する中国の中小企業の雇用者は、80パーセントがアフリカ人であるという報告もあります。つまり、中国の中小企業のアフリカ進出は、現地に雇用も生み出しているのです。

 これに代表されるように、良かれ悪しかれ、中国のアフリカ進出は、両者の相互依存関係を急速に深めています。その実態を見ずして、教条的に中国を批判することは、生産的でないばかりか、欧米諸国とアフリカの関係の暗部を等閑視することにもなりかねません。その意味で、アフリカそのものに視点を置くならば、いたずらに中国を非難する論調に迎合するより、その進出のあり方を、より厳密に検討する必要があります。そして、これは日本自身のアフリカへの関わり方を再考する、一つのヒントになる可能性があるといえるでしょう。(おわり)
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