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2011-09-11 09:50

(連載)米国の9.11記念報道番組を観て、思う(1)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 今年の9.11は10周年記念にあたるため、9月11日前後の米国各メディアは特別記念企画番組を報道している。番組の内容は、各テレビ局により異なるが、総体的には9・11後の米国の変貌を検証したものが多いような印象を受ける。このような背景には、10年前の9・11が米国にとって歴史上最大の惨事であり、如何に大きな心理的影響を米国人に与えたかを物語っている。多数の特別企画番組の中から、特に私が関心を持った二つの番組を要訳して紹介したい。最初は、8月28日、『ナショナル・ジオグラフィツク・チャンネル』が放映した、ジョージ・W. ブッシュ前大統領の独占インタービューで、後世に残る回顧録として当時の個人的体験とその時の心境を淡々と語ったものである。二つ目は、9月6日『PBS』テレビが放映した、2年間の調査報告による共作『トップ・シークレット・アメリカ』に基く報道番組である。複数の専門家に加えて、ピューリッツァー賞受賞作家およびジャーナリストであり、この共作の主人公であるダナ・プリーストが解説している。

 特別企画テレビ・インタービューで画面に映し出されたブッシュ氏の表情には、10年前の攻撃的な印象は衰え、幾分憂いさえ感じられた。ブッシュ氏は、9・11の朝、フロリダ州、サラソタの小学校2年生の読み書きのクラスを参観していた。最初の航空機が世界貿易センターのツインビルに衝突したことを、午前9時25分に知らされた時、「最初の反応はひどい天候か、またはパイロットの異常事態により、何らかの途方もない事故が発生したと思った」と語った。更に2機目が、別のセンター・ビルに激突したことを聞かされたとき、「誰の仕業だろうかと思い、教室の授業に集中することはほとんどできなかった」とし、「その時、すぐ教室を飛び出ることより、冷静さを保つことだと決め、10分後に教室を出て、ホワイト・ハウスの緊急室に向った」と語った。

 3機目が午前9時40分頃ペンタゴンに激突した時、「戦争の宣告を受けた、と解釈した」と話した。その後、最後の4機目のユナイテッド航空93便が10:03分にペンシルベニア州のシャンクスヴィルに墜落し、全員が死亡したことを知らされた。この日、一日中、大統領専用機で各地を飛び回っていたブッシュ氏は、3機目がペンタゴンに突撃した後の煙を、アンドリュー空軍基地から目撃している。「まず、他の人達と同様、家族の安否が気になり、どうしたら国を守れるのだろうかと思い、米国は攻撃され、戦争ゾーンになってしまった。決して、予期したことでも、望んでいたことでもなかったが、自分は戦争ゾーンの大統領であると自覚し、多くの決定をする原因になった」と語った。当日のホワイト・ハウスからの大統領演説の趣旨は、「一連のテロ攻撃により米国の自由が標的にされ、悪魔の手により突然、数千人の米国人が死に追いやられた。テロリストが、大規模なビルを崩壊することは可能でも、アメリカの基盤を揺るがすことはできない。米国は、自由と機会に恵まれている点で世界で最も輝いた国であるため、攻撃の標的となったが、国民が一致団結してテロリストとの戦争を勝ち取ろう」という内容であり、最後の部分では、「被害に遭遇した家族の悲しみと、国の安全性が脅かされたことを痛み、詩篇23篇〔旧約聖書)からの祈りを捧げる」と述べている。

 翌日、ブッシュ氏は「我々は違う類の戦争に直面した、という新たな真実に気付いた」と話し、「米国人は皆同様に不安、恐怖、ショック状態で、相当な精神的ダメージを受けていたが、大統領が精神的な打撃を受けたことを知られて、テロリストに勝利感を味あわせたくなかった」と語った。9月14日にはニューヨークのグラウンド・ゼロで、救済活動に専念していた警察官や消防士を激励した際、「一人でも多くの人と握手し、一人でも多くの人たちと目を合わせるよう努めた」と語った。このインタービューでブッシュ氏が強調したかった点は、「テロリストに勝利はありえない。彼らは、米国民の人生と国の経済にひどい打撃を与えたため、勝利したと確信しているだろうが、米国を敗北させることは断じてない」とうことである。今年5月、オバマ大統領から「オサマ・ビンラディンが殺害されたことを知らされたとき、正義はなされたと思った」と語った。ブッシュ氏はこのインタービューで「対テロリズム」政策の詳細を語ることはなかったが、「米国民に対するこのような未曾有のテロ攻撃は二度と起こらない」と、自らの決意を表明した。この決意の裏にあったものは何であったのか?(つづく)
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