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2011-09-05 15:25

(連載)カダフィ体制崩壊が中東・北アフリカにもたらすインパクト(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 8月23日、ついにリビアの首都トリポリが陥落しました。反政府組織のアンブレラ組織「国民評議会」側の部隊に追われ、最高指導者カダフィはアルジェリア方面へ逃亡中と伝えられています。彼の胸中に去来するものを測ることはできませんが、恐らく「大量破壊兵器を処分しなければよかった」ということではないでしょうか。

 いずれにせよ、これでリビアの体制が転換することは、ほぼ確実とみられています。内戦中から欧米諸国、あるいはサウジ・アラビアなどカダフィと対立していた穏健派アラブ諸国からの支援を取り付けた国民評議会の主導で、欧米諸国寄りの国家が建設されるであろうことは、衆目の一致するところです。実際、国民評議会の幹部が、「カダフィを支援してきた」という理由により、中国系企業の石油権益が保護されない可能性に言及し、これに対して中国政府が保護を要請する事態も生まれています。

 権益の保護がどうなるかはさておき、カダフィ体制が崩壊することは、中国、ロシアといった、これまでリビアと友好関係にあった諸国にとっては、大きな打撃です。逆に、目障りだったカダフィを排除できた上に、石油の埋蔵量で世界7位のリビアへのアクセスを確保できたことで、欧米諸国にしてみれば、笑いが止まらない状態、と言うと言いすぎでしょうか。ともあれ、エジプトやチュニジアの新欧米派政権が倒されたあととなっては、中東・北アフリカにおける欧米諸国の重要拠点として、リビアが浮上することになります。

 一方で、カダフィ体制の崩壊は、この地域一帯に少なからず動揺を生むことになると考えられます。なかでも、カダフィの影響を受けた他の「独裁者」たちにとって、リビアの体制転換は大きなダメージとなります。1980年代以来、アメリカをはじめ欧米諸国と敵対する一方で、カダフィは地域一帯にその影響力を浸透させるため、近隣諸国の反政府系組織に軍事援助を行ってきました。スーダンのバシール政権に近く、ダルフール内戦の当事者となってきたイスラーム組織「ジャンジャウィード」の幹部の多くは、もともとリビアからの軍事訓練を受けた人間です。また、バシール大統領自身も、ベンガジに設置されていた「世界革命センター」で、カダフィから影響を受けた「独裁者」の一人です。バシール大統領が国際刑事裁判所(ICC)から国際指名手配を受けるなか、一際大きくこれを批判したのは、カダフィでした。(つづく)
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