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2011-08-29 18:49

(連載)震災から5ヶ月に想う:J.S.ミルの訓え(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 震災から5ヶ月が経ちました。被災された方々には、改めてお見舞い申し上げます。この間、日本では、いろいろな課題が浮き彫りになったと思います。原発の是非はその最たるものです。しかし、それ以外にも、「非常事態」を想定した法令が整備されていないゆえにトップリーダーが右往左往する状況、原子力安全保安院に象徴されるいびつな行政機構の弊害、そして中央と地方の役割分担の不明確さ、などなど。

 もちろん、これら全ては、いわゆる「国のかたち」に関わるものであり、「のどもと過ぎれば」で忘れてよい課題ではありません。しかし、「復旧・復興」が叫ばれるなかで忘れていけないのは、どんな「国」を再建するのかという問題です。被災した人たちの生活を保障し、放射能汚染から生命、安全、財産を守ることが、最優先課題なのは、言うまでもありません。また、住宅地の整備や、インフラや産業の復興も急務です。ただ、(まだその道程は遠いですが)これら肉体的、物質的な充足を満たせる状態になった後、どんな精神的充足を満たせる国や社会を目指すのか、ということもまた、大事な課題だと思います。

 なにが「幸福」なのかは、人によって違うでしょう。物質的な充足をもって「幸福」と感じる人もあるでしょうし、家族との時間を「幸福」と感じる人もあるでしょう。あるいは、自分ひとりで趣味に没頭することが「幸福」な人もあると思います。しかし、なんであれ、大事なことは、個々人が自らの「幸福」を追求できることです。そのうえで、さらに重要なことは、物質的充足そのものが「幸福」とは限らないということを再認識することだと思います。

 私より少し上の世代は、バブル期に就職した世代です。高度経済成長からバブル崩壊までの間、日本では物質的充足そのものを目的化し、「豊かな生活」が「幸福」の象徴と捉えられていたように思われます。無限に経済成長が続かないことが明らかになった途端、精神的支柱まで失われ、日本社会の求心力が急速に失われていったことは、偶然ではありません。似たような状況は、経済成長そのものを目的化している、現在の新興国、なかでも中国に顕著なのではないでしょうか。(つづく)
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