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2011-08-12 00:02

次期大統領選めぐり疑心暗鬼のメドベージェフ陣営

飯島 一孝  ジャーナリスト
 モスクワの夏は、涼しくて過ごしやすいのが定番だったが、森林火災を招いた昨年あたりから暑い夏が続いている。それに輪をかけるように、今夏は次期大統領選をめぐってメドベージェフ大統領陣営とプーチン首相陣営との間で、水面下のホットな戦いが繰り広げられている。大学時代の先輩、後輩で双頭体制(タンデム政権)を形成する大統領と首相は当初、お互いに弱い部分を補完し合う理想的な関係だった。ところが、昨年秋ごろから路線を巡る対立が目立ち、来春の大統領選が迫るにつれて、両陣営の間の亀裂が広がっている。

 夏に入ると「プーチン首相が大統領選への出馬準備を急いでいる」などの情報が外国通信社から流れ、再選を目指すメドベージェフ陣営をいらいらさせている。メドベージェフ陣営は、プーチン首相から「お墨付き」をもらって出馬宣言をする戦略だった。ところが、首相は「まだ早すぎる」としてゴーサインを出してくれないばかりか、自ら出馬するような動きを見せているからだ。メドベージェフ陣営の疑心暗鬼を強めたのは、プーチン首相が今年5月、与党「統一ロシア」の支持者を拡大するためとして「国民戦線」を創設したことだ。首相は「年末の下院選で与党の勝利を確実にするのが目的」というが、次期大統領選を控えて与党党首の地位を磐石にする狙いが透けて見えたからだ。

 これまでプーチン首相は「大統領と話し合って、大統領選の候補者を決める」と言ってきたが、新組織立ち上げの事態にメドベージェフ陣営内部から「首相自身が次期大統領選に出るため本格的に動き出した」との見方が浮上した。「最終的には大統領の再選を支持してくれる」と期待していただけに、突然の“変身”に首相陣営への不信感が渦巻いている。大統領はもともと憲法で絶大な権力を認められ、首相を解任する権限も与えられている。そこで「このまま首相のお墨付きがでなければ、大統領が権限を行使して、首相を解任する事態に迫られるかもしれない」との見方も出ている(8月1日付け『モスコー・タイムズ』紙)。この解任権は、大統領選の半年以内まで行使できるとされる。
 
 プーチン首相は本当に立候補する気なのか、それとも脅しなのか。首相は、この件では依然沈黙を守っており、真意は分からない。それだけに、首相からの「大統領再選へのゴーサイン」をじっと待つべきか、それとも憲法で与えられた権限を行使して、目の上のたんこぶである「首相を切る」べきか、メドベージェフ陣営は昨年にも増して暑い夏を、ハムレットの心境で過ごしているに違いない。
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