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2011-07-29 17:50

北京で開催された国際経済学協会 第16回世界大会に出席して

池尾 愛子  早稲田大学教授
 各国の代表的経済学会の集まりである国際経済学協会(International Economic Association、IEA、「国際経済学会」との表記もある)の世界大会が、ついに中国の首都北京で開催された。第16回世界大会が7月4-8日に、清華大学経済管理学院(School of Economics and Management)・公共政策管理学院(School of Public Policy and Management)において、青木昌彦会長(米スタンフォード大学)の組織により実現したのである。両学院の建物は、キャンパス内の中国的デザインの他の建物に比べて、比較的コンパクトで、外観もほとんど中国的ではない。経済管理学院の回廊の壁面には、歴代のノーベル経済学賞受賞者の写真がずらりと飾られている。創立百周年を祝う清華大学(1911年設立)から、「ノーベル経済学賞受賞者を出すぞ」との意気込みが、教授・学生からも壁からも伝わってくる。大会の使用言語は英語で、会場にいると中国にいることを忘れるほどであった。学院長の挨拶でも、清華大学が中国において特別な存在であることが強調された。

 4日午前に大講堂で行われた「中国と日本の経済発展と制度進化の5局面」と題する会長講演は、中国での世界大会開催にふさわしい内容で、世界各国からの参加者に対する大会のアカデミック・イントロダクションになっていた。講演内容は、大会ホームページに掲載されているので、誰でも閲覧できる(http://www.iea-congress-2011.org/)。そして、中国を代表する経済学者の呉敬レン(レンは「王」偏に「連」、Wu JInglian)氏のフィトゥシ講演「経済学と中国の経済的隆盛」が続いた。彼は中国の比較経済学研究学会のほか、国務院発展研究中心にも所属する。フィトゥシ講演は、長年IEAの事務局を務めてきたフランス人ジャン・ポール・フィトゥシ氏の功労を称えて設定されたものである。呉氏の講演は、そうしたフィトゥシ講演にふさわしく、世界の経済学者の関心を大いにそそりうるものであったので、実際に口頭で発表された部分だけでも、一般公開されることを望みたい。

 7月4日午後以降は、少ない時でも2-3のセッションが、多い時には11のセッションが、同時並行して進められたので、要約しようとすれば大半を無視することになりかねない。経済学の世界では、理系ほどではないにしても、その中で専門分化が進んできている。そこで、様々な専門で焦点を絞った研究を進める経済学者が各地より集まり、一堂に会して議論しあうことが、IEA世界大会(3年ごと)の重要な開催目的の一つになっている。内外合わせて360名を超える経済学者が参加登録し、その目的は達成されたといえる。セッション・テーマは、環境問題、経済発展、ゲーム理論、農業経営、国際貿易、労働市場、実験、教育、新興経済や地域経済、社会保障、経済史、産業組織、保険、マクロ経済学、ミクロ経済学、財政やその持続可能性、銀行、社会規範、儒学や経済思想など、多岐にわたった。もっとも中国では、貨幣政策や国際金融の問題に特別の関心が引き寄せられるようだ。中国国内の大学院生・大学生も200-300人くらい招待されていたように見うけられ、多くの時間帯に彼ら向けの中国語セッションが1つ設けられていた。彼らは関心に応じて小規模セッションに静かに出席していたほか、国際通貨・金融をめぐる招待セッションでは、活発に質問もしていたというか、そうした招待セッションのスピーカーは彼らに向けて話をしていたように思われた。

 大会中、気がつけば、中国の(若い)学生たちが活発に動き回っている一方で、海外からの参加者の平均年齢は通常より高めかもしれないと感じられた。また、開催国からの熟年の経済学者の参加が、通常の世界大会より少なかったかもしれない。私事で恐縮であるが、今大会では、リトアニアからただ一人参加した経済学者と同じセッションで発表することになった。リトアニアは旧社会主義国で、彼は主流の経済学をあっさりと受容することができず、経済学を膨らませたいという希望を盛り込んだ発表を行った。2005年頃の世界大会の折だっただろうか、東欧の経済学者たちが大学でどのように経済学を教えるべきか、まだ迷いがあると語っていた記憶が蘇ってきた。もちろん、今大会は会長の尽力により、成功裏に終了した。そして呉氏が名誉会長に就任する一方で、新しい次期会長は選出されなかった模様である。大会終了時点で新会長になったジョセフ・スティグリッツ氏(米コロンビア大学)のもと、IEAは新しいチャレンジに乗り出すようで、中国の経済学・社会科学の動向とともに様子を見守りたいと思う。
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