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2011-07-28 07:30

「亡国首相」を無視し、原発輸出を促進せよ

杉浦 正章  政治評論家
 発言の世界的影響を考えぬ駆け出し市民運動家に返ったような首相・菅直人の思いつき発言が、トルコへの原発輸出に暗雲を垂れ込めさせている。言いたい放題の「脱原発路線」が“実害”となって跳ね返ってきているのだ。原発輸出は生き馬の目を抜く国際競争のさなかであり、耐震性では世界一の技術を持つ日本製原発に比べて、未熟な中国や韓国製原発が発展途上国に蔓延しかねない状況も生じている。「中国製新幹線事故」が原発で発生してもおかしくない、と専門家は指摘している。もはやここまできたら、首相の「浅慮の致すところ」を政界、官界、自治体、産業界はまともに受け止めて対応すべきではない。当面「亡国の菅発言」を無視して、正しいと思った政策を推進すべき所にきている。「すごい神経だ。まともな神経なら、とうに辞めている。逆に感心してしまう」と、寡黙な小沢一郎が久しぶりに口を開いたが、菅の発言は、このところ常軌をを逸している。とりわけ原発に関する発言が暴走の域に達しており、小沢の言うように「異常者」のレベルだ。「脱原発」を唱えた翌日に「個人の考え」と訂正する。自ら先頭を切って奨励した原発輸出を、7月20日にいったん中止しない方針を示したが、翌21日になると「もう一度きちんとした議論がなされなければならない」とひっくり返す。

 ルーピー鳩山の妄言に勝るとも劣らぬ舌禍であり、国の最重要政策をもてあそんでいる、としか思えない。ついに地方自治体まで“不信任決議”だ。全国都道府県議会議長会は27日、「菅首相退陣要求の緊急決議」を採択している。まさにゆゆしき事態が広がっている。こうした中でトルコは、日本が受注を目指して交渉してきた原発建設計画で「日本が交渉継続の方針を明確にしなければ、優先交渉権を7月末で撤回する」と伝えてきたのだ。菅が成約したはずのベトナムも韓国の働きかけでぐらつき始めているという。フクシマ以後の世界の原発事情を展望すれば、主要国で脱原発を表明したのはフランスから電力を買えるドイツとイタリアのみである。原子力を核兵器として開発してきた米露英仏中の5か国は、いずれも原発推進路線である。原発はあらゆる先端技術の複合体であり、主要国の中で唯一平和利用に徹して原子力を開発してきた日本の技術は、世界の専門家の間で高く評価されてきた。事実、日本の原発は、地震に関しては世界最強を誇るといってもよい。直下型の新潟地震でも、基本的には耐え抜き、東北電力女川原発も東日本大震災の地震と津波に耐えたのだ。

 焦点のフクシマだが、実は国際原子力機関(IAEA)の専門家の多くが、マグニチュード9に耐えたことを驚きをもって評価しているのだ。問題は、その後に起きた1000年に1度の津波に耐えきれなかったことだ。だから、実績などをアピールすれば、原発輸出を展開していくことは十分可能とみられていた。事実、ベトナム副首相から「日本の技術を高く評価する。災害の経験を生かした新技術を導入して作ってほしい」と評価され、トルコ大使からは「いまでも日本の技術を信用している」という意思表示がなされていたのだ。それを菅がひっくり返したのだ。菅の言うように「原発ゼロ」を目指せばどうなるかだ。まず営々として積み上げてきた原子力平和利用の技術が失われる。世界の原子力開発は事実上、核兵器開発諸国の手によってのみ牛耳られ、イニシアチブを握られ、日本はし烈な競争から脱落する。エネルギー安全保障は、他国の手に完全に委ねられる。間隙を縫って中国、韓国が安価で低技術の原発を売りまくり、世界的に「原発不安時代」が到来しかねない。先端技術の複合産業であるが故に「日本脱落」のもたらす影響は計り知れない。

 現在1%に満たない自然エネルギーの開発は10年、20年先の夢ではあるが、エネルギー供給確保の現実論にはなり得ない。おりから企業の7割が安い電力を求めて海外移転を考慮し始めており、そうなれば産業の空洞化は現実のものとなる。民間調査機関によると、全54基の原発が止まった場合、国内総生産(GDP)が14兆円以上減少し、発電コストは4兆円増加し、50万人が失職するという試算がある。要するに、菅のパフォーマンスのみに踊らされてはならない問題なのであり、政争の具と化してもならない。また平和利用に徹した政策を、一部新聞や低俗民放番組のように国民の核アレルギーを呼び覚まして反核兵器運動と混同させてはならない。したがって、何が何でも8月いっぱいで菅を引きずり下ろす必要があるが、それまでの間は、菅の思いつき発言に政治家も官僚もいちいち踊らされるべきではない。だいいち、官房長官・枝野幸男が「輸出見直しを示唆したとは受け止めていない」と述べており、ベトナム、トルコへの輸出はちゅうちょなく継続すべきだ。ベトナムだけで1兆円規模の原発輸出の成否は、精神的にも、実態経済面でも、「国力」堅持の瀬戸際に立っていることを象徴する。敗退すれば、原発ドミノ倒しの危機だ。それがまわりまわって震災復興へとつながる事を忘れてはならない。当面「亡国の首相」は無視するのが、一番の方策だ。それこそが「無政府」ではなく「有政府」なのだ。
 
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