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2011-06-05 00:20

(連載)天安門事件から22年(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 天安門事件から22年と聞いて、時間の経過の早さを痛感しました。当時高校生だった私は、戦車の進路に大学生が立ちふさがる情景をTVでみていました。あれから中国はよくなったのか、そうでないのか。その答えは簡単には出ませんが、一つ確実なのは、中国で大規模な民主化要求が出てくる可能性が、この数年でさらに大きくなってきたということです。

 S.ハンチントンや多くの政治学者が述べているように、一般的に言って、1970年代半ば以降世界各地で波状的に発生した民主化(ここでは単に複数政党制への体制転換を指す)は、都市中間層を主な担い手としてきました。高所得者は政府と結びやすく、貧困層は政治活動をするには時間的・金銭的余裕がなく、知識・情報も不足しがち。大卒など一定程度の教育水準と所得水準を得て、なおかつ急激な経済変動などによって政府に不満を募らせた中間層が政治変動の中心を担ったことは、偶然ではありません。

 この観点から言えば、中国の事情はある意味特殊でした。法律より人脈がモノを言い、共産党一党支配のもとで、政治だけでなくビジネスにおいても共産党との縁故が成否を分ける中では、ほとんどの中間層もやはり既存の秩序のなかで「うまくやっていく」方を選択してきたのです。つまり、1990年代以降の中国では、共産党と積極的にコネを作るメリットが大きくなったことで、中間層が政治変動の中心となることはなかったのです。少なくとも、驚異的な経済成長が続いていた間は、弾圧される可能性の高い政治活動に無理に参加するより、そちらの方が個人的には「コストが安かった」といえるでしょう。

 ただし、今年2月末から3月初旬にかけて中国に行った際には、これまでにないほど多くの人が生活への不満を訴えていました。リーマンショック後の世界金融危機のなかで、中国は他の新興国と同様に、先進国を尻目にいち早く景気を回復させました。しかし、それは世界で行き場を失っていたお金の多くが、それまで以上に中国めがけて集中してきた結果、ともいえます。必要以上の資金が流入すれば、当然インフレが発生します。一方で、賃金をあまり上げるとインフレに拍車がかかるため、中国政府も賃上げに関してあまり発言していないように思います。その結果、所得は増えず、しかし物価は上がることで、実質所得は低下するという循環が生まれてきました。(つづく)
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