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2011-05-13 11:37

オサマ・ビンラディンの日誌が明白にしたこと

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 オサマ・ビンラディンが5月1日、パキスタンのアバタバットで、米国の特殊部隊ネイビー・シールズによって殺害された事件を受けて、様々な論議が展開されており、現在でも事件関連のニュースが頻繁に報じられている。米政府は、当時ビンラディンの私邸から押収したコンピュータ5台、100個のUSBメモリ、他重要資料の中から、貴重な情報として、ビンラディンの手書きの日誌の一部を11日に公開した。政府担当者は、『FOX』ニュースに、ビンラディンは、特殊部隊が襲撃した私邸に2005年の入居以来、「敷地内の庭を散歩する以外は、ほぼ囚人同様の生活をしていた」にも関わらず、各地に散在するアルカイダ組織の加盟グループと連携があったことを伝えた。アルカイダのリーダーが外部社会から孤立したような実態は、当組織が弱体化していたかのような印象を与えるが、実際は、今後のテロ計画が着実に進んでおり、同時にビンラディンは、邪悪で用意周到な人間であったことを、この日誌は明らかにしている。

 政府関係者の話によると、日誌はパキスタンも含めて、イエメン、イラク、アルジェリア、ソマリアなどのアルカイダ組織に、複数の密使を派遣して、テロ計画に関する機密情報を保存したUSBメモリを運送させていたという。日誌には「9・11規模のテロで数千人のアメリカ人を殺害すれば、米国政府は外交政策を変えるだろう」と師弟の一人に語ったとされる内容も含まれており、一度のテロで壊滅的な打撃を与えることをほのめかしている。また、ニューヨークを攻撃することには限界を定めないことや、ロスアンジェルスおよび小都市もテロ活動の区域に定めるよう指示していたようである。また、「ワシントンに反逆者の種子を蒔き、政治家同士が争いあう原因をつくる」案などに関する情報も提示されている。しかし、アルカイダの重要責任者と見られるアイマン・アル・ザワーヒリーが後継者になる可能性があるものの、誰が後継者になったとしても、各地に散在し、それぞれ目的の異なるアルカイダ組織グループのテロ活動で、その統率能力が充分にあるかどうかは明らかにしていない。しかし、資金の豊富な指導者を失った打撃は明白である。

 米国政府は10日前から警戒態勢を呼びかけており、特に、主要都市の電車、地下鉄、地下街、駅構内などに警告を発している。9.11の10周年にあたる今年は厳重な警戒が続くものと思われる。英国通信社『ロイター』によると、米国は昨日、パキスタンを基点とする軍隊グループの指揮官であるバルディン・ハカニを特に「グローバル・テロリスト」として指定し、米国管轄下にある同指揮官の資産を凍結する声明を行った。ビンラディンはパキスタンの軍施設から2~3キロの距離内に潜んでいたが、このことから判断して、パキスタン政府は「ダブル・ゲーム」を演じていたと見られている。G・W・ブッシュ政権下で施行された大統領令は、テロリストを支持する個人またはグループもテロリズムに関与する仲間として標的にしているため、米政府は、ハカニに関与する「個人及びグループが彼と取引することも禁止する」としている。

 ビンラディンの日誌は、彼がアラブ諸国に対する米国の外交政策に大きな憤りを感じていたことを明白にしている。米国は、冷戦当時から共産主義思想の普及を防ぐため、ヨーロッパ諸国への戦後の再建援助も含めて、アジアおよびラテン・アメリカに多額の経済援助を行ってきた。冷戦後、共産主義封じ込めの目標を失うと、2001年の9・11後からは「テロリズムに対する戦争」という新たな名目を見出した。自国経済の有利性のためには、ある時は独裁者を支持し、ある時は民主主義を主張するという「ダブル・スタンダード」を使い分けてきた。米国の本質は変わっておらず、テロリズムと対抗するため、多額の資金を導入し、多くの国に経済援助を行ってきた。パキスタンもテロリズム対策に協力するための援助を受けている1国である。皮肉にも、ビンラディンの目的は、米国の経済を崩壊させることであり、「ダブル・ゲーム」を演じているパキスタンへの今後の米政府の対応が注目される。
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