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2011-05-11 10:36

(連載)ビン=ラーディンの死は、終結か、始まりか(1)

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 国際テロ組織アル=カイーダの首謀者オサマ・ビン=ラーディンがアメリカ軍との銃撃戦の末に死亡しました。オバマ大統領は「正義が行われた」と緊急声明で胸を張りました。私自身は、同時多発テロ事件が発生した年に大学院を終え、教壇に立つようになりました。いわば、「テロとの戦い」は研究者としてのキャリア(たいしたキャリアではありませんが)と並行して行われてきたということで、それが大きな転換点を迎えたことに、個人的にも感慨があります。

 いずれにしても、ビン=ラーディンの死亡は確かに大きな出来事ですが、かといってこれで「テロとの戦い」が終結するわけでないことは、多くの人が指摘するとおりです。私の暮らす横須賀でも、報復を警戒する米軍の緊張感がむしろ高まっていることは分かります。ビン=ラーディンは国際テロ組織を手足のように動かしていたわけではありません。資金やメッセージを提供することで、国際的なテロ活動をプロモートしていたに過ぎません。2003年のマドリード、2004年のロンドンでの同時多発テロ事件に代表されるように、各地で暮らすムスリムが既存の社会に対する不満を暴力的な破壊活動で晴らそうとするとき、そこに介在してきただけなのです。

 もちろん、サウジアラビアの富豪一族出身で、潤沢な資金を供えていたビン=ラーディンが死亡したことは、国際テロ組織の活動をある程度制約することになる側面もあります。中東やアフリカには、「~のアル=カイーダ」を名乗る組織が数多くありますが、これらはいずれも直接的に「本家」アル=カイーダとは関係がありません。「アル=カイーダ」の系列を名乗ることで、本家から資金提供を受けたりしていたに過ぎないのです。いわば、フランチャイズです。本家が立ち行かなくなれば、いきおいフランチャイズも勢力をそがれることになります。少なくとも、資金面での不安が大きくなることは確かです。

 ただし、この吉凶を占うのは、現段階では困難です。もともと、テロ組織にリクルートされる人たちは既存の社会に対する不満を抱えた人たちです。それが緩やかながらも国際テロネットワークに絡め取られることで、一定の組織だった行動を取っていたといえます。「本家」が衰えることは、もともとあった末端の分裂を加速させ、無軌道な破壊活動が頻発する可能性も否定できないのです。(つづく)
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