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2011-04-05 09:38

(連載)スマート・パワー:リビア危機と福島原発危機(2)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 現在、リビアへの人道的介入と日本での原発事故危機は、スマート・パワーの理論と実践を考えるうえで、きわめて重要な事例である。前者は中国、ロシア、インドが国連安全保障理事会で軍事的介入には賛成票を投じなかったために、欧米対その他という、従来からの力の対決の構図である。後者は超国家的な協調が要求されている。原子力エネルギーと環境問題は人類共通の死活的課題なので、問題は国家とイデオロギーの衝突を超えたものである。

 リビアの事例はきわめて悩ましい。当初はフランスとイギリスが人道的関与を求める一方で、オバマ政権は慎重であった。これはイラク戦争の構図とは、正反対の構図である。カダフィ体制への反乱を支援してゆくうえで、米欧同盟の結束は重要である。同盟国との政策調整の他にも、オバマ政権はイラク戦争での心理的なトラウマを抱えている。オバマ政権が地上軍の派遣を躊躇する理由は、これだけではない。アメリカの介入を呼びかけているのは、レジーム・チェンジを主張するネオコンと人道介入を主張するリベラルである。そうした中で、米議会は、オバマ政権に戦争目的と介入の限界を明確にするように要求した。

 きわめて困惑すべきことに、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「オバマ政権は、戦略に関してそれ以上の議論を避けようとしていることは明らかで、国連安全保障理事会の決議実施の責任も、フランスとイギリスだけでなく、火曜日に軍用機の派遣を表明したカタールとアラブ首長国連邦まで含めた同盟諸国に押し付けようとしている。言うなれば、アメリカの出口戦略は、多国籍軍の出口戦略とは必ずしも一致していない」と報道している。

 リビア戦略に関する議論が激しくなるに従って、ジョン・マケイン上院議員は3月25日のFOXニュースで、オバマ政権に対して「空爆にとどまらず、カダフィ氏によるリビア国民への虐殺行為を許さぬようにせよ」と要求した。他方でジョセフ・ナイ教授は、オバマ氏のアプローチを擁護している。アメリカは一国中心主義に走らず、NATOに指揮権を譲るという低姿勢をとった。また、ナイ氏は、戦略目的と戦闘期間の拡大に慎重なオバマ氏の姿勢を支持している。国内外からの圧力を受けて、オバマ氏は3月28日の国防大学での演説で、アメリカの特別な役割と普遍的価値観を称賛し、リアリスト的な姿勢を拒絶した。ロバート・ケーガン氏はこの演説が「ケネディを髣髴させる」と評している。(つづく)
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