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2011-04-04 15:41

(連載)スマート・パワー:リビア危機と福島原発危機(1)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 さる2月19日よりの本欄における「連載」で、私は「スマート・パワー」という新しい安全保障概念とアメリカ外交について論じた。これは、グローバル・フォーラムが米CSISと共催した「スマート・パワーと日米同盟」に関するシンポジウムを受けてであった。「スマート」という単語は、時にはその真の意味を探ることもなしに、多くの人々の気持ちをとらえてしまう。しかし、「スマート」あるいは「効率的」な組織は、予期せぬ事態に対処できないことが多い。スマート・パワーに関して、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授とブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員は、PBSで3月4日に放映された「アイデアズ・イン・アクション」という番組で、この概念がアメリカ外交でどのようにあるべきかを討論した。ナイ氏はスマート・パワーに関する権威で、オバマ政権とは緊密な関係にあり、他方でケーガン氏はネオコンの代表的な論客であり、先の大統領選挙ではジョン・マケイン氏の外交政策顧問を務めた。

 よって、この番組はアメリカの外交政策形成者達の間で新概念がどのように考えられているかを物語っている。番組の中でナイ教授は、「スマート・パワーとは経済力や軍事力といったハード・パワーと説得と魅了というソフト・パワーの組み合わせである」と説明している。ナイ氏はアメリカが依然として抜きん出た大国であるのは、イデオロギーでの絶対優位のためだと言う。ロバート・ケーガン氏は「パワーとは多次元であり、そうした多様なパワーをスマートに活用できれば、アメリカ外交にとって有益である」ことには同意している。しかし、ケーガン氏は「ソフト・パワーは、強力なハード・パワーがあってこそ有効であり、それはアメリカが冷戦期に同盟国に提供した安全保障の傘に典型的に表れている」と主張する。

 今日では安全保障の課題は、相互に複雑に絡み合っている。金融秩序崩壊、環境破壊、非国家アクターの脅威といったグローバルな問題には超国家的な政策調整が必要だが、従来からの国家対国家の競合も強まっている。非常に重要なことに、ケーガン氏が述べるように、中国やイランの挑戦を抑えるにはオバマ氏の魅力など何の役にも立たない。ナイ氏も軍事力が今世紀も重要な役割を担うことに同意している。両氏の議論を通じ、ハード・パワーとソフト・パワーは相互に関連し合っていることがわかる。

 スマート・パワーについて論じる際に、安全保障問題の性質が相互に絡み合うように進化していることを忘れてはならない。これはアメリカ外交だけの問題ではない。昨年11月のNATOリスボン首脳会議で採択された新安全保障概念では、上記でナイ氏とケーガン氏が議論した安全保障の課題に取り組むために「効果的な危機管理には、政治、市民社会、軍事を包括的に取り込んだアプローチが必要だ」と記されている。(つづく)
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