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2011-02-14 11:59

ユーチューブとフェイスブック

池尾 愛子  早稲田大学教授
 昨2010年3月に、アメリカ・ワシントン州シアトルのワシントン大学において、ファカルティ・ディベロップメント(授業・教育能力の向上)のために3週間の研修を受ける機会があった。同大では、アメリカの大学で最も利用者の多い「ブラックボード」と名づけられた授業用システムを採用し、学生にはフリーの(無料で自由に使える)グーグルの応用ソフトの併用を推奨していた。「ブラックボード」については、2008年にアメリカのデューク大学で長期在外研究期間を過ごした際に、ゲストアカウントを利用して、短期間のみアクセスさせてもらった。多種の機能が備わっていて、教授たちはそれぞれ特定機能に限定して、授業で利用しているようであった。授業用資料の電子配布が最も多いようだったが、それなら伝統的な利用法の延長上にあるといえる。大学のウェブサイトからユーチューブ(You Tube、動画共有サイト)によくリンクが張られていて、ネットワークが自由に活用されていることがわかった。他方で、ある国ではユーチューブにアクセスできないとも聞いた。

 シアトルでは、ユーチューブを活用していた教授がいた。同教授は環境問題の授業を幾つか担当してきたようで、私が見せてもらった授業では、他の授業の履修者たちが作成した「小さな環境対策」を実践した様子を記録した動画がいくつか紹介された。同教授は担当授業で、環境問題・対策を解説するだけでなく、環境対策につながることを履修者たちに実践させ、動画として記録し、ユーチューブに掲載することを推奨していたのである。そして、「動画に登場する学生の顔が、当該授業履修者にはわかるが、そうでない人々にはわからない程度に、画質を落とすこと」といった指示が出ていたようだ。そのため、動画全体がぼやけることにはなるが、登場する学生が何をしているかはわかる。ユーチューブにはもちろん他の人々が制作した環境対策ビデオも掲載されていて、授業では「話題の作品」が紹介された。登場人物の顔が識別できるものについては、「このビデオでは顔がはっきり見える」、「このビデオにある顔は印象に残る」とコメントされ、ユーチューブに動画を掲載するにあたっての適切な注意になっていて感心した。授業でのユーチューブ利用法について、同僚たちと議論した成果が反映されているようだった。

 1年と数ヶ月前、私はソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS、交流サイト)のフェイスブック(Facebook)に初めてアクセスした。当初は1週間に1度アクセスするかしないかで、最近でも毎日アクセスするわけではない。私の友人たちには、毎日「ウォール(壁)」とよばれる、友人全員が共通して閲覧できるスペースに、毎日書き込みをする人たちもいれば、ほとんど書き込みをしない人たちもいる。こちらも色々な利用法があるようで、利用者全員が閲覧できるメッセージが書き込める。そして「友人」と承認した者同士で、書き込みや写真を閲覧しあったり、あるいは、さらに限定されたグループで「会話」や「議論」をしたり、1対1での「メール通信」を同サイト経由で行ったりすることができる。私がよく使うのは最後の機能で、「友人」と久しぶりに会うためのスケジュール調整をしたり、事後にメッセージを交換したりするときに重宝する。当初は「友人」が限定通信欄に書き込んだとき「新しいメッセージがある」とだけしか、フェイスブックからメール配信されなかったのだが、そのうちサイトで書き込まれたメッセージ全体がメール配信されるようになった。返信するときにはフェイスブックにアクセスすることになり、それによって、2人の「往復書簡」は同サイトに保存されることになる。しかし、ある国に滞在中、時間をおいて同サイトにアクセスを数回試みたが全くうまくいかず、焦ったことがあった。

 『日本経済新聞』は1月24日付朝刊あたりから、中国では、フェイスブックやユーチューブへのアクセスができない、あるいは制限されている、と報道している。交流サイトへのアクセス制限は、日本の若者たちに大きなショックを与えているようである。今年1月に、フェイスブックの各国別の利用者数などを一覧したとき、中国での利用者数が出てこなかったことがある。ただ、その時には香港や台湾での利用者数も出てこなかったので、データを見るときには注意を要するであろう。ある学部や研究科に留学生が複数いる場合には、同じ出身国や同じ言語圏でグループができる傾向があるのはいずこも同じようで、グループ内での共有情報もかなりあるようだ。アクセスできないのではなく、少し工夫をすれば簡単にアクセスできるのだとしても、そうした動画共有・交流サイトへの制限がある環境からやってきた若者たちと、そうした制限のない環境で育った若者たちとのあいだでは、最初はしっくりこないことが多いであろう。それでも、ウェブサイト・ネットワークの社会的利用環境が異なることを十分に承知した上で、勉学・研究を通じての交流を冷静に推進してほしいと願っている。
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