国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-01-05 17:20

(連載)「アルカイダ」報道の背景にあるもの(1)

溝渕 正季  日本国際フォーラム研究助手
 2010年の大晦日、エジプト北部の都市アレキサンドリアで21人が死亡する大規模なテロ事件が起こった。事件の真相はいまだに不明であるが、現地報道によると、コプト教というキリスト教の一分派のミサを狙った犯行であるようだ。そして、我が国の報道機関は今回の一件に関して、エジプト内務省の発表を引用するかたちで、「アルカイダによる犯行」と簡潔に報じている。たしかに昨年10月末にイラクのアルカイダ「系」組織である「イラク・イスラーム国」がキリスト教徒向けの脅迫をしていたことは事実であり、また、エジプト内務省がこの件に関して「アルカイダによる犯行」と発表したことも事実である。だが、今回の一件に限ったことではないが、世界のどこかに作戦本部があり、確固たるヒエラルキーや指揮系統を有するような「国際テロ組織アルカイダ」が犯行を起こしたかのような報道は不正確であり、かつ、こうした報道を鵜呑みにしていては、事件の複雑な背景を見落とす危険がある。ここでは、以上の点に関して簡単に考えてみたい。

 そもそも「アルカイダ」とは、アラビア語で「基地」あるいは「名簿・台帳」を意味する単語「カーイダ」に、定冠詞「アル」が付いた言葉である。ウサーマ・ビン・ラーディン率いる国際テロ組織「カーイダ・アル・ジハード」、通称「アル・カーイダ(アルカイダ)」の名前が一躍脚光を浴びるようになったきっかけは、言うまでもなく2001年9月11日の米国同時多発テロ事件であった。だが、これまでに様々な研究によって指摘されているように、この「アルカイダ」は現在、アフガニスタンとパキスタンの国境地域、およびその周辺の中央アジア地域を除くと、既に安全保障上の脅威とはなっていない。9・11事件からほぼ10年が過ぎ、同組織は今では指導部やメンバーの大半を戦死や逮捕で失っており、世界中にネットワークを持つ「国際テロ組織」とは程遠い代物である。

 ではなぜ「アルカイダ」の名を騙るテロ事件が世界中で頻発するようになったのか。1つには、9・11事件をきっかけに、いわば「アルカイダ」という「ブランド力」が急激に上昇したからである。さらに、ここ十数年でインターネット技術やその普及度が飛躍的に上昇し、洋の東西、人種、年齢問わず、いかなる人物・動機による犯行であっても、「アルカイダ」という名をネット上で語ることが可能となったからである。

 こうしたことから「アルカイダ」本体は、世界中で起こされた様々な事件の中から「優れた」作戦を実施した者、忠誠表明をした者、事後の広報活動で連携が期待できる者、身元が確認できる者などに対して、ビン・ラーディンらの幹部が「アルカイダの犯行である」と事後承認することにより、「アルカイダ」本体は「業績」を、作戦実行者は「威信」を、それぞれ獲得するというメカニズムを確立したといわれている。これに対し、多くの治安機関・報道機関は、ビン・ラーディンらによる「選択的な事後承認」を待つことなく、十分な検証や分析をしないままに、出所や信憑性が怪しい声明を速報し、「アルカイダ」犯行説を世界中に流布させることが多くなった。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム