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2010-12-17 09:40

(連載)新「防衛大綱」の方向性は妥当だが(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 懸念されるのは、戦車の200両削減である。現大綱では約600両だが、それを約400両にまで減らすという。1995年策定の「07大綱」は約900両であったから、それと比べると半減以下となってしまう。少数精鋭の機動性の高い戦力を迅速に投入するというのは、米国のラムズフェルド元国防長官が過度に推し進めようとして、イラク戦争を泥沼化させた大失敗の前例がある。戦車の大幅削減は、それを想起させる。

 さて、最も批判が集まっているのは、武器輸出三原則の緩和を明記しない点である。確かに、国会対策優先で社民党に配慮して武器輸出三原則緩和の明記を見送ったのは、強く非難されるべき対応である。しかし、武器輸出三原則を堅持すると明記したわけではない点には留意すべきである。現状では「武器輸出禁止原則」になってしまっている武器輸出三原則を緩和すべき最大の理由は、国際的潮流となっている武器の共同開発の妨げとなっているからである。

 大綱に「武器輸出三原則を現在の形で維持する」と明記しない以上、武器輸出三原則を本来の形に戻し、さらに新しい時代にふさわしい武器輸出に関する原則に改めることに関しては、フリーハンドである。次期大綱には、防衛装備品の調達や防衛産業の維持・育成に関する現状と課題を列挙し、武器の国際共同開発・生産が国際的潮流となっていることを正しく指摘している。そして「武器の国際共同開発が主流になっている中での武器輸出管理の在り方について方策を検討する」ことを明記している。ここまで記述しているのであれば、武器輸出三原則緩和が明記されなかったことを論じる意味はほとんどない。

 もっとも、次期防衛大綱がおおむね妥当なものになったのは、民主党政権の功績であるとは言えない。そもそも、次期防衛大綱は、昨年中には策定されていなければおかしかった。中国艦隊が南西諸島を横切って太平洋上で大規模演習を実施したり、尖閣沖衝突事件の勃発から分かる通り、中国の海洋進出圧力がここまで明確に高まれば、対中国をにらんだ南西諸島方面重視という以外の方向性は考えられない。中国の活発な海洋進出が周辺諸国を脅威にさらしていることは、国際的にも周知の事実となりつつある。12月14日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ』の社説も、日本の次期防衛大綱を取り上げ、中国の脅威がある以上、このような方向性になるのは理解できる、という意味のことを書いている。大綱は、いくら立派なことを書いても、実行されなければ、単なる紙切れに等しい。重要なのは、次期防衛大綱に書かれた適切な内容が実行できるか否かである。民主党政権の実行力不足と、党内での安全保障政策の不一致が、重大な懸念材料である。(おわり)
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