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2010-09-06 18:50

イラク戦争のまっとうな「評価」には、なお時間が必要だ!

石川 純一  フリージャーナリスト
 米軍のイラクでの戦闘任務が終了した。オバマ米大統領は8月31日夜、全米向けテレビ演説を行い、2003年から7年半に及んだイラクでの戦闘任務が終了したことを正式に宣言した。2001年9月11日の米同時多発テロから始まる21世紀初頭を象徴する対テロ戦争の1つ、イラク戦争は、米軍将兵4000人以上という犠牲者を出しながら、とにもかくにもこれで終了した。オバマ大統領は今後の軸足を(1)アフガンでの戦闘と(2)米経済の立て直しに置くことを公言。オバマ大統領は「今夜、イラクでの戦闘任務が終了したことを宣言する。イラクの人々に未来を与えるため、米国は大きな代価を支払った。米国の若者をイラクに送り、大きな犠牲を伴った」と断言、イラク戦争で米国が支払った代価が、決して安いものではなかったことを確認した。

 オバマ大統領はまた、引き続き米軍の移行部隊が残り、イラク軍の訓練などにあたる考えを示す一方で、2011年末の米軍の完全撤退の方針には変わりがないことを強調した。さらに同大統領は、今後の課題として、アフガンでの戦闘と米経済の立て直しを挙げ、特に国内の雇用創出に力を入れる意向も示した。オバマ大統領は、上院議員時代も、大統領候補時代も「イラク戦争は間違った不当な軍事介入だ」として、反対し続けた。が、この日の演説では、同大統領は、イラク戦争を勝利とも敗北とも断定せず、ただ「米軍の任務達成」だけを、くどいほど繰り返すにとどまった。

 ブッシュ前大統領が始めたイラク戦争は、反対派が叫び続けたイラクの内戦や国家分裂を招きはしなかった。イラクと米国の両方に痛ましい犠牲をもたらしたが、なお米国の意図通り残虐と独裁のフセイン体制を倒し、曲がりなりにも民主主義国家を誕生させたのは、否定のしようがない。中東の戦略要衝に親米欧の穏健国家が生まれたことの意義は、極めて大きなものがある。だが、こうした側面は、米側の「フセイン政権は大量破壊兵器を既に備蓄」という当初の主張が的外れだったことへの猛反発で、かき消されてしまった。開戦当時に米国務長官を務めたコリン・パウエル氏(73)が、毎日新聞の電話でのインタビューで「戦争は避けることができた」と述べ、旧フセイン政権の大量破壊兵器(WMD)の存在に関する情報が間違っていたことを「極めて残念だ」と強調したのが好例である。

 しかし、米軍がイラク戦争で、その国家安全保障を20年にわたり脅かし続けてきたフセイン政権を瓦解させたことは隠しようもない事実である。WMDの備蓄は間違った情報だったが、フセイン政権が隣国を侵略し、大量破壊兵器を実際に使用し、中東地域に危険を生み、国連を無視した行動を繰り返していたのもまた、事実である。加えて、米国は、イラク国民を圧政から解き、対外的に危険な行動をとらない新生イラクの土台を築いた。要するにイラク戦争に対するまっとうな「評価」には、なお時間が必要なのだ。
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