国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-05-20 07:28

空白で失われた「悪夢」の9ヶ月間

杉浦 正章  政治評論家
 歴代政権がガラス細工のように作り上げてきた普天間の辺野古移設問題を、首相・鳩山由紀夫は自らたたき壊しておいて、挙げ句の果てはそれをセメダインで貼り付け、「これが“決着”」と差しだそうと言うわけだ。辺野古埋め立ての日米合意に事実上戻るわけであるから、米国の了解も取り付けやすいだろう。米国の反対さえなければ“政局”は回避出来る、と踏んでいるのだろう。5月20日付朝日新聞によると、月内に日米共同声明で辺野古移転を確認するという。政権発足以来の鳩山政権は、9か月間の失われた政治を形作っただけであり、これがまだ続くのかと思うと、悪夢だ。社民党は離反の色合いを濃くしており、地元では体を張った抵抗がささやかれている。

 鳩山がまた“定義”を変えた。今度は「埋め立ては自然への冒涜(ぼうとく)」発言だ。「むやみに行うことに対して、そう発言した」のだそうだ。むやみに行わなければ、よいということだ。しかし環境に配慮した埋め立て案などあるのだろうか。首相の周りが苦肉の策で作っている埋め立て案なるものは、ヘドロを使って周りの珊瑚礁をよみがえらせようというもののようだ。筆者は、この構想も全くの詭弁(きべん)であると思う。なぜなら計画の基本は、辺野古の海を埋め立てて、滑走路を作るのであり、鳩山が「自然への冒涜」とした定義づけは、いささかも変わらない。まるで環境破壊のパルプ工場を作っておいて、回りに花壇をしつらえたから環境配慮だ、と言うに等しい。

 駐日米大使ジョン・ルースは「移設を早期に完了できる案を作って欲しい」と防衛相・北沢俊美に要望したが、なるほど早期に完了できる案とは、既に日米合意が達成されている辺野古埋め立てしかないわけだ。鳩山は「最低でも県外」を断念、「杭打ち方式」も断念。「自然への冒涜」は実行する。そして鳩山自身が一番嫌った前政権の合意案へと回帰するわけだ。鳩山の統治能力の欠如をいまさら言っても始まらないが、あまりにひどい。「空白で失われた9か月間」を主演した責任は大きい。この9か月間は、辞めない限り更新されてゆく。10か月間、1年間、そして最大4年間だ。鳩山政権が続く限り、日本にとって間違いなく「失われた時代」だけが形成されてゆくだろう。仏大統領シャルル・ドゴールは「政治家は心にもないことを口にするのが常なので、それを真に受ける人がいると、びっくりする」と述べたそうだが、今の日本人は皆そう思っている。

 問題のポイントは、「5月末決着」には日米合意しか含まれないであろうということだ。地元の反対と憤りはもちろんのこと、社民党党首・福島瑞穂は、政府が「閣議決定」「閣議了解」をやめて「首相発言」で決着させようとしていることについて、強く反発している。政府が強行すれば、当然連立離脱が念頭にあるのだろうが、まだ未練たらしく先延ばしも主張しており、分からない。地元の反対運動も、政府が強行突破しようとすれば、「戦後最大のレジスタンスに遭う」(社民党参院議員・山内徳信)という状況だ。鳩山は、あおりにあおった挙句、ついには休眠状態にあった成田闘争的な左翼運動を盛り上げてしまうかも知れない。米国との「合意」と同時に、地元、連立との「合意」も、「合意」である。ここでも、鳩山は、また定義を変えてお茶を濁すのか。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム