国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-04-25 21:32

(連載)医療保険改革の危機を乗り切ったオバマ大統領(2)

若林 秀樹   元参議院議員
 これが日本であれば、どうだったであろう。米の「医療制度改革」のように、世論調査上は「子供手当て」が明らかに不人気であったとしたら、支持率が下がった鳩山政権は、起死回生をかけて法案を強引に通したであろうか。ポイントは、世論調査という天の声をどう捉えるかである。確かに「法案反対」という世論調査結果は謙虚に受け止める必要はあるのだが、世論とは常に変動するものであり、選挙までの時間軸の中でそれに振り回されてはならないという考え方がある。まさにオバマ大統領は、この医療制度改革が米国民のためになるという信念を貫き通し、国民はその先頭に立って戦うオバマ氏のリーダーシップを高く評価した。それがアメリカの政治文化なのかもしれない。

 むしろ今後の米世論は、一旦は不人気であった法案の成立を歓迎し、オバマ大統領への支持率は上がるかもしれない。事実、アフガニスタンへの米軍増派がそうであった。オバマ氏は日頃から、本心かどうかは別として、「人気取りの政策はしない、国民のためになる政策を実施する。それが原因で一期だけの大統領になっても構わない」という趣旨の発言をしている。また、日本人にとって一番理解できないのは、先進国では常識である国民皆保険を経済大国のアメリカでは何故導入できなかったのか、ということである。米国では、国民の2割近い4600万人とも言われるひとたちが、保険未加入のまま放置されている。

 皮肉にも、中間層では逆に保険未加入者は2割しかおらず、8割の人にとっては、これまでの医療保険制度の結果として、負担増となりかねない。それで国民皆保険への政治的圧力が弱くなったという側面もあった。しかし最大の理由は、アメリカでは伝統的に政府の関与を嫌う価値観が強く、医療保険は他の先進国のようにすべての国民に適用されるセーフティネットとして見なされていないことである。つまり、自らの健康維持は自らの責任において行うべきものであり、市場経済の一部である医療では、高額所得者が高度な治療を受ける権利があるのは当然である、という考え方である。

 しかし、そのことで高度医療が進み、米国の医療費を押し上げている要因になっており、さらには、高額医療が保険料の高騰を招いて、保険未加入者の比率を高めている悪循環にもなっている。いずれにせよ、今回の医療保険改革は大きな前進ではあるが、中身は妥協の産物であり、現行制度の拡充という見方もある。これで本当に国民の95%が医療保険でカバーされ、財政の負担も減るのか、全くの未知数である。ましてや、これでオバマ政権の政治的危機が遠ざかったというのは、もっと不確かなことかもしれない。オバマ大統領にとって、今後の最大の課題は、経済回復と失業率の改善であり、茨の道は続く。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム