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2009-12-16 07:45

虎の尾を踏んでしまった鳩山対米外交

杉浦正章  政治評論家
 ワシントンの流行語が「日本疲れ」(読売新聞)だとすれば、東京ではさしずめ「鳩山疲れ」だ。普天間移転問題をめぐって、無能・無策の首相・鳩山由紀夫に振り回されて、ついに首相主導の日米同盟関係の亀裂まで招きつつある。鳩山は「交渉、交渉」と言うが、米国に“離縁状”を突きつけておいて何の交渉をしようというのか。「今結論を出せば必ず壊れる」と言うが、壊したのは、鳩山自身ではないのか。このさいはっきり「常時駐留なき安保を実現するために交渉する」と言ってはどうか。もちろん、その前に国民の信を問う必要がある。駐留なき安保構想がすべての元凶になっているのだ。

 前から指摘してきたが、ここまで鳩山を突き動かしてきたのは、ブレーンの日本総研会長の寺島実郎だ。しかし外交のプロ、素人を問わず寺島への批判が強い。その中で、小沢一郎は12月15日開いた政治資金パーティーに、これ見よがしに寺島を招いて、外交講演をさせている。内容は定かでないが、考え方は朝日新聞の8日付のインタビューで表明している。寺島は、(1)首相が今進めるべきは、日米関係総体の再設計であり、向こう岸にめざすものをはっきりさせないで、普天間の決着はあり得ない、(2)米軍が将来ハワイ、グアムの線まで前方展開兵力を引いたとしても、日本がコスト負担する形で緊急派遣軍を日米共同で維持する方式もある、と述べている。明らかに「駐留なき安保」論であり、これを鳩山が生煮えのまま呑み込んでいるのである。読売によると、寺島は最近ワシントンでこれを説いて回り、普天間に代わる新たな場所を探せとする鳩山の指示と「連動する」と受け止められているという。「駐留なき安保」に動くとの警戒心も呼び起こしたともいう。鳩山も、旧民主党幹事長の1997年に「常時駐留なき安保」構想を月刊誌で唱え、訪米して同構想を説いて回り、ひんしゅくを買っているから、確信犯であることは確かだ。原点は祖父・鳩山一郎の米国中心外交の転換論と米軍撤退論にあることは間違いない。

 「駐留なき安保」論も、緊急派遣軍構想も、二つの点で荒唐無稽(むけい)だ。一つは北朝鮮が核を保有してどう喝し、中国が国力を背景に軍事力を大幅に増強している中で、北東アジア情勢は中東と並んで最も緊迫した地域の一つである。米軍基地の果たす抑止力が秩序を保っているのが現実だ。その抑止力を外せば、偶発戦争も起きやすい。現在の自衛力で緊急事態に持ちこたえられるかというと、防衛省幹部は「とても無理だ。米軍が到着するのは、日本が壊滅した後になる」と述べている。二つは日米安保体制がもたらした財政効果だ。軍事費を比較すると米国はGDPの4%、欧州は3%なのに対して、日本はわずか0.9%で済んでいるいる。それに比べれば、思いやり予算などわずかなものだ。これが経済発展を支えてきた基礎だが、それを鳩山は放棄するのか。米軍がいなくなれば、北の脅迫に対抗した核保有論も台頭しよう。核廃絶を唱える鳩山が、日本の核武装の“環境”を作り出すことになるではないか。アドバイザーによる「究極のミスリード」と、それに気づかない鳩山の関係図式が普天間で鮮明になった。

 ワシントンにおける鳩山の信用失墜は決定的なものになった。ホワイトハウスも、国務省も、国防省も、「鳩山を信用する人は誰もいない」状況なのだという。元米国務副長官アーミテージは「『来年の夏まで結論を待て』となると、ほとんどの米国人が『日米同盟は日本政府にとってあまり重要ではない。連立政権維持の方が重要だ』と考えてしまう。日米合意が白紙に戻ってしまうのではないか」との懸念を表明している。まさにわずか7人の社民党の“しっぽ”が“胴体”を振っている状況だが、このような状況を国民は総選挙で予想しただろうか。定見などさらさらない鳩山外交に、国民の不安は募る一方だ。米国は“対鳩山戦略”を早晩再構築するだろうが、ジャパン・パッシングは既に始まっている。鳩山は「虎の尾を踏んでしまっている」ことに、とんとお気づきでない。
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