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2009-11-30 07:42

偽装献金で「ポスト鳩山」もうごめく

杉浦正章  政治評論家
 新聞はこれまで褒めそやしてきた関係からなかなか書かないが、首相・鳩山由紀夫は、どう見ても進退これ谷(きわ)まりつつある状況だ。現在予想できるだけで、母親の事情聴取、党首討論、秘書の起訴という激震が3回も襲いそうな雲行きである。それも首相自身の脱税疑惑にまでたどり着きかねない様相だ。首相が現職のまま前代未聞の法律違反に問われかねない状況でもある。既に「ポスト鳩山」が民主党内でうごめき始めており、某有力後継候補の親戚の財界人が、幹事長・小沢一郎と秘密裏に会い、頭を下げたという。肉親ぐるみの偽装献金という新展開、しかも母親から9億の不明瞭なカネが渡っている。行政刷新担当相・仙谷由人はテレビで「人情話からいえば井戸塀で麗しい」とばかげた発言をしたが、政権の増長が極まったような認識だ。

 世の中それほど甘くないことがやがて分かる。逆にNHKの番組で公明党国対委員長・漆原良夫は、弁護士の立場から興味深い発言をしている。首相の脱税を指摘したのだ。「年間1億8000万円の母親からのカネを贈与税で支払うと金額は8720万、5年間で4億3600万円の脱税となる」という。さらに漆原は「9億のカネは貸付金と言うが借用書はあるのか。利子を払ったのか。母親の政治献金だとすれば政治資金規正法の量的制限違反となる。贈与なら鳩山に脱税の疑惑が出る」と述べた。要するに、贈与なら鳩山に脱税容疑、献金なら母親に政治資金規正法違反容疑、貸付金なら法的手続きを踏んでいない可能性があるというのだ。「地検もたぶん母親を取り調べすると聞いている」とまで言い切った。

 鳩山はハードルを乗り切れるのか。まず東京地検特捜部が首相の実母(87)を参考人として事情聴取した場合、当然地検は偽装の原資に充てられた疑いが濃厚な資金提供の経緯を質すだろう。貸付金にしても、政治資金にしても、贈与にしても、違法性は漆原が述べたとおりであり、まず聴取で疑惑が晴れることはないだろう。鳩山は、事情聴取の段階で政治的・道義的責任を問われる。首相の母親が事情聴取を受けるという前代未聞、世界的にも珍しい事態だ。それだけで「サドン・デス」になりかねないほどの問題だ。次に党首討論だが、民主党はまさか延長国会においても討論を逃げるわけにも行くまい。開催されれば、追及材料が山積しており、ヤワな自民党総裁・谷垣禎一でも勝てる状況だ。母親からの9億もの献金を知らずに「驚いている」と、国民があきれるような言い逃れをする鳩山だ。大失言を引き出すのはわけないだろう。

 最後に秘書の起訴だが、これはブーメラン効果以外の何物でもない。「秘書の罪は、政治家の罪」に代表される数々の前言が、鳩山に重くのしかかってくる。鳩山および周辺には、「疑惑が生じた後の選挙で信任を得たのだから、在職のまま責任を果たせる」という奇妙な論理構成があるが、これは通じない。選挙の前も後も世論調査は「首相は説明責任を果たしていない」が70%を越えている。11月30日付の日経新聞の世論調査では「首相の説明不十分」とする回答が何と80%に達した。

 読売新聞によると、本会議場で鳩山が扇子に揮毫しているのを遠くから見ていた小沢に近い議員が、「辞表でも書いているのではないか」と鳩山の側近をからかったという。側近は慌てて首相の様子を探りに行ったそうだ。小沢にしてみれば、鳩山はもともと“雇われマダム”程度の認識だろう。失敗すれば差し替えるだけだ。副総理・菅直人や外相・岡田克也もそわそわし始めたことだろう。しかし菅は、政治資金をめぐる疑惑が浮上しており、2代続けての政治資金疑惑では、これまた政権が持たない。潔癖なまでにカネにクリーンな岡田が有利だろう。小沢も、秘書の公判が近く始まる段階では、自ら手を挙げられまい。その小沢に某候補の親族の財界人が会談して、「よろしく」と支援を要請したという話がささやかれている。某候補の名前はいずれ明らかにするが、「ポスト鳩山」が既にうごめき始めた証拠だ。まぎれもないキングメーカー小沢がどう動くか、かたずをのんで見守られるところだろう。
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