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2009-11-16 07:43

鳩山の“変節”発言が日米関係を毀損する

杉浦正章  政治評論家
 もはや“ぶれ”などという生やさしい表現をしている段階を過ぎて、「異常なまでの変節」としか思えない。首相・鳩山由紀夫がまたまた日米合意を覆す発言をした。米大統領・オバマとの間で確認した米軍普天間基地の迅速なる移転の決定を、1月の名護市長選以降に延ばすことを強く示唆する発言をしたのだ。長年政治を見ていると“八方美人”やその場限りの口約束でごまかす政治家に多く接してきたが、首相という重要ポジションでこれほどの右顧左眄は初めてだ。適性に欠けるとしか思えない。外相・岡田克也が15日に「できるだけ年内に結論」と発言したこととも食い違い、閣内は不統一の極みだ。自民党の政調会長・石破茂が「オバマ大統領に対する明確な背信行為だ」と断じ、NHKの日曜討論では評論家・森本敏、元首相補佐官・岡本行夫が、これ以上ないほどの強い口調で批判した。

 11月13日の会談を説明する大統領と首相の共同記者会見も、録画して繰り返し聞いたが、鳩山発言のコンテクストを分析すると、どう捉えてもいまや普天間問題のキーワードとなっている1月の名護市長選以前の決着を目指しているとしか思えなかった。鳩山は「前政権の日米合意を深く受け止めている」と述べ、名護市への移転を選択肢の一つとしていることを表明。ついで総選挙で県外・国外移転を表明した点に言及し、「そのことによって県民の期待感が強まっている」としたうえで、「困難を伴うが、時間がたてば難しくなる」と発言している。これはどうとらえても名護市長選で反対派が勝って、一地方選挙が国政を直撃してしまう以前の決着としか考えられない。オバマもそう受け取っただろう。読売新聞によるとオバマは会談で「時間がたてば、より問題の解決が難しくなる」と鳩山に迫ったという。オバマは米議会の軍事施設建設に関する予算歳出法案をめぐり、日本の決定遅延が海兵隊8000人のグアム移転経費を削減する修正案の成立に影響を及ぼすことを意識したに違いない。議会で修正案などが成立すれば、グアム移転そのものが白紙に帰しかねないのだ。これに呼応して鳩山は13日の段階では「時間がたてば難しくなる」と発言したと見るのが自然だろう。落としどころは常識的に言って「名護市移転」しかない。それも年内決断がカギなのだ。

 ところが翌14日には早くも変節した。「名護市長選にしたがって方向性を見定めてゆくこともある。市長選が全く念頭にないと言うわけではない」と述べたのだ。これは日米閣僚級の作業部会の結論を名護市長選以後に先送りすることを強く意識している発言だろう。民主党は先の総選挙に「県外移転・国外移転」を繰り返し、沖縄県民の反米感情に火をつける戦略で臨んだ。鳩山の同種の発言も火に油を注ぎ、鳩山は自らを自縄自縛の窮地に追い込んだのだ。その鳩山が今度は窮余の一策として名護市長選を“活用”しようとしているとしか思えない。移転反対派の勝利を見込んで、それをテコに米国に名護移転を断念させようと言うわけだ。これはあきらかに首相たるものが取るべき道ではない。正道でなく邪道だ。首相発言にNHKで防衛政務官・長島昭久が「正直言って一瞬びっくりした」と驚きの声を上げたのも無理はない。森本は「総理には切迫感も危機感も無いということに尽きる」と酷評したが、もっともだ。岡本も「せっかくオバマ大統領と良い会談をしても、翌日にはそれをひっくり返すようなことを言う。同盟関係というのは信頼関係だ」と批判した。

 鳩山は、首相就任直後の日米首脳会談で日米同盟基軸をうたいながら、中韓両首脳の面前では「今までややもすると、アメリカに依存しすぎていた日本だった」と擦り寄った。これがまずいと見ると、東南アジア首脳会議では、米国がその場に参加していないにもかかわらず、「日本の新しい外交政策として日米同盟を外交の基軸に位置づける」と大きくぶれた。筆者は首相官邸記者クラブに合計16年詰め半世紀近く政治を観察しているが、これほどいい加減で、外交常識を欠く首相を見たことがない。森本が「首相にはきちっとした防衛・安保のアドバイザーが必要だ。状況を説明する人がいない。危機感を抱く」と述べたとおりだ。全く外交・安保の常識を分かっていないのだ。赤字国債をめぐる内政上のふらつきと違って外交・安保の変節は国益に直結する。民主党政権が左傾化していることはかねてから指摘したとおりだが、党内左派に根強い「駐留なき安保」を目指すなら、なし崩しの対応をせずに、これをテーマに国民の信を改めて問うべきだ。名護市民には同情はするが、一地方自治体が国の進路を決めてはならない。かねてから「鳩山で国会が持つか」と危惧する記事を書いてきたが、流れはどうもその通りになってきたようだ。
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