国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-11-14 13:31

(連載)民主党政権の深刻に過ぎる「初期故障」(2)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 「新政権には新政権の考えがある」と述べる鳩山首相は、普天間基地移設に関する日米間の合意は自民党政権の合意だとして、その見直しを主張した。この立場を代弁する形で10月22日付けの朝日新聞社説は「辺野古への移設は日米双方の前政権が合意したことだ。政権交代に伴ってそれを検証し、見直しを提起するのは当然だ」と述べた。しかし、この考えは基本的に間違っている。政権の交代で、国内政策、対外政策がいろいろ変わるのは当然だ。しかし、主権国家間の重要な合意とか、条約は、政権の交代によって軽々しく変えられるものではない。それを認めれば、国際関係は大混乱に陥る。共産党のソ連邦が崩壊し、体制が全く異なるロシア連邦が成立したときでさえも、ロシア連邦はソ連邦の後継国家として、重要な国際合意や条約は、すべて引き継いだ。1996年に民主党のクリントン政権は、日本政府と普天間基地返還の合意に署名した。次の共和党ブッシュ政権は、クリントン政権と戦略的な考えはかなり異なったが、当然のことながら日米間のこの合意は引き継いだ。主権国家間の合意というものは、それだけで重いものである。ちなみに、同日の日経新聞社説では、「政権交代で政策が変わるのは当然だが、国際約束は別である」として、この考えを支持している。

 次に、鳩山首相は、普天間基地問題に関して日米合意と民主党の公約と沖縄県民の心を並べて、県民の心を一番尊重すべきだと述べた。名越の市長選の後に決定したいという考えも、そこから来ている。しかし、普天間基地の問題は、日本の安全保障の根幹に関わる問題である。つまり、単なる地域問題ではなく、まさに国家の安全保障、あるいは国家の運命全体にかかわる問題だ。このような問題に関して、まるで地域問題であるかのごとく考えるのは、基本的に間違っている。10月22日付けの読売新聞社説は「本来、国全体の安全保障にかかわる問題に関して、県民の意向だけに委ねるような姿勢は危険でさえある」と述べているが、当然だ。ここにも、鳩山政権の主権国家に対する認識の甘さが表れている。

 最後に、鳩山首相は、普天間基地問題に関して、「首相や主要閣僚がそれぞれ異なった考えを述べても、最終的に閣議で統一すればよい。それはむしろ柔軟性があってよい。最後は私が決める」と述べている。しかし、首相や閣僚の発言は、学生の討論会ではない。国家主権を担う責任者の発言である。国家間の交渉では、ポーツマスの講和条約にしても、日露の北方領土交渉にしても、しばしば国益をかけたぎりぎりの鍔ぜり合いが行われる。閣僚の公の場での発言は、私見ではなく、そのような真剣勝負の場での、国益を担った発言のはずだ。もし首相の考えにしたがうならば、首相や閣僚の発言はあまりにも軽くなり、単なる個人の思いつきと見られて、ほとんど信用されなくなる。各国もまともに相手にしなくなる。これはまた、きわめて危険でもある。というのは、長年真剣な努力で積み重ねられてきた自国の交渉の土台を、一瞬にして切り崩してしまうおそれがあるからだ。政治主導とは、政治家が国家から自由になることだと思っているとしたら、これも危険な錯覚だ。

 鳩山政権の最も深刻な問題は、国の政策に対する考えの「軽さ」であろう。国の政策に対する責任を負わない野党時代の気軽さを、政権担当後もそのまま引きずっている。それは、民主党や社民党がもともと主権国家や国家間の関係というものに対するリアルな感覚を欠いているためだ。小沢一郎氏が国連を世界政府のように考えているのも、このことと無関係ではない。尤も、民主党議員の中にも、多くの自民党議員以上のリアリストがいることは、承知している。結論として、このような鳩山政権の言動については、これを「新製品」の初期故障とみるには、問題があまりにも深刻であると言わざるを得ない。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム