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2009-11-02 18:46

ベルリンの壁崩壊から20年にして思う

石川 純一  フリージャーナリスト
 1989年、昭和から平成へと元号が変わったこの年の11月19日、世界もまた変わった。世界を米ソ2つの陣営に分断していた東西冷戦の象徴、ベルリンの壁が崩された日だからだ。自由を求めて西側になだれ込んだ東独の人々と、大歓声でこれを迎えた西独の人々が、共に壁によじ登り、28年もの間両者を隔ててきた分厚いコンクリートの壁を打ち破った。歴史の1章が終わり、新たな1章が始まった瞬間であった。ベルリンの壁崩壊はまた、「20世紀型紛争」そのものを体現していた大きな要素が、音をたてて崩れ去ったことを意味している。「20世紀型紛争」は、第1次世界大戦が勃発した1914年にその特徴を明確にし、ベルリンの壁崩壊で歴史の彼方に消え去った。ファシズム、共産主義、民主・自由主義の3つの主義の闘いに決着が付いたからである。ファシズムが負け、共産主義も敗け、民主・自由主義が勝利を手中にした。

 さらに深く考察してみると、1789年のフランス革命、1917年のロシア革命、1949年の中国革命に色濃く見られる暴力革命に1つの節目が訪れたことが、ベルリンの壁崩壊で分かる。暴力を伴わなくても、革命は達成可能だということが、判明したからだ。もちろん、これをもって非暴力革命が到来した日というわけではない。翌1990年の湾岸危機、1991年の湾岸戦争で世界に姿を見せ始めた「何か」が、「21世紀型紛争」の再来を告げたからだ。これは現在の「テロとの戦い」につながっている。
米ソ2極体制は、その後のソ連邦崩壊で終焉し、いわゆるアメリカン・グローバリズムの時代が到来した。今の知的活動に必須のウィンドウズに支配されたコンピュータ群の時代が、米国のガレージで始まったのである。イスラム原理主義も、いかなる軍事国家も、はたまたウラン濃縮も、およそその活動は、これを外しては成り立たない。歴史上、このような時代は、かつてなかった。

 米ソ2極体制は、2超大国が世界を管理する「長い平和」の時代を象徴していた。ベトナム戦争のような代理戦争はあったかもしれないが、結局は米ソが管理していた。ベルリンの壁崩壊は、この管理がきしみ始めたことも意味していた。本音で東独と西独が統合されて1つの「ドイツ」となることを極度に恐れていた英仏は、ゴルバチョフの手を借りてこれを阻止し、管理された「長い平和」を保とうとした。「大ドイツ」は、第1次、第2次大戦の元凶だから、当然である。しかし、流れはもはや止めようがなかった。

 そして世界は、その結果を甘受したのである。現時点で「大ドイツ」は、いかなる脅威も世界に与えていない。「欧州統合」は、紆余曲折はあっても時代の流れとなった。ベルリンの壁崩壊から20年。「20世紀型紛争」から「21世紀型紛争」へ。イデオロギーは終焉し、イスラム原理主義が、先進国から開発途上国まで跋扈する。イラク戦争は、終わりの始まりを迎えたが、オバマ米政権は今、「テロとの戦い」の軸足を、アフガンに改めて向けようとしている。その意味では、民主・自由主義は、いまだ「わが世の春」を謳歌しているとはいい難い。
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