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2009-10-11 09:45

鳩山発言では、米国抜きの「東アジア共同体」になる

杉浦正章  政治評論家
 テレビを見ていて一瞬「おっ」と思った。首相・鳩山由紀夫の日中韓首脳会談における発言である。鳩山は「米国よりもアジア重視」を鮮明にさせる発言をしたのだ。米国も注目している日中韓首脳会談、しかも冒頭のテレビカメラの入っている中での発言だ。「脱米入亜」の4文字が脳裏を走った。外相・岡田克也の東アジア共同体への米国除外発言と合わせると、“4文字路線”は一層鮮明化する。米国の何らかの参加なしで東アジア共同体構想が成り立つとも思えない。日米首脳会談で築いたはずの「信頼関係」に影を落とすことも避けられまい。

 単純に言えば、イソップの「コウモリの寓話」だ。一方の“陣営”と他方の“陣営”の双方にいい顔をする感じがする。訪米の際鳩山は、「日米安保を基軸とする信頼関係の構築が最優先だ」と大統領・オバマとの会談には臨んでいる。しかし、なぜか大統領との会談では東アジア共同体構想には言及していない。一方、中韓両首脳の面前では「今までややもすると、アメリカに依存しすぎていた日本だった。日米の同盟は重要だと考えながら、アジアの一国として、アジアをもっと重視する政策をつくりあげていきたい」とあいさつしたのだ。この発言は、決定的に公式なものであり、北京の米国大使館がオバマ訪日を前に最重要発言の一つとして、本国に伝達したことは間違いない。まさに首脳会談の信頼関係にかかわる発言としか言いようがない。鳩山政権首脳は、まるでお経のように「日米同盟が基軸」と唱えるが、その言動、ボディランゲージを読み取ると、“離米”“脱米”で、アジアへの軸足移行が根底に存在することを裏付けているのだ。

 発言はまず日米間の信頼問題に影を投げかけるが、鳩山提唱の東アジア共同体構想と米国との関係にも重大な影響を及ぼさずにはおかないだろう。岡田は同構想への米国の参加について「米国も入れると世界の半分になってしまい、何が何だか分からなくなる。米国は米国でやってもらいたい」「日中韓、東南アジア諸国連合、インド、豪、ニュージーランドで考えたい」と、米国抜きの構想推進を明言している。鳩山はこれまで「米国を除外する発想はない」と述べているが、岡田の主張に大きく傾斜したことになる。これでは共同体構想が米国と対峙するかのように見られる危険性を内包している。全国紙の社説のとらえ方も批判的だ。読売が「東アジア共同体構想が外交の重心を米国からアジアに移すものと解釈されかねない」と警鐘を鳴らせば、朝日新聞ですら「米国と対立するような共同体はあり得ない」と主張する。産経も「米国抜きの共同体は危険」と見出しにとった。

 日中韓首脳会談では共同体構想に関しては、中国首相・温家宝が「既にメカニズムがたくさんある」(毎日新聞)と消極的とも取れる発言をしている。韓国の大統領・李明博も「時間が少しかかるかも知れない」と述べている。中国は“お手並み拝見”、韓国も“様子見”と言ったところが本音だろう。いずれにしても政治体制、軍事力、価値観、言語が異なる国々が、共同体を作るには30年、40年かかると見なければなるまい。せっかくの長大な構想を、鳩山や岡田が言うように、「米国は入れない、どこどこを入れる」などと外交的あつれきに発展させて何の利点があるかである。現実を見据えた外交が望まれる。
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