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2009-10-07 07:43

補正予算削減で二番底に向かう景気

杉浦正章  政治評論家
 鬼の首を取ったように行政刷新相・仙谷由人が「国民生活第1の資源の再配分。異例中の異例だ」と、補正予算の2兆5000億削減で胸を張った。首相・鳩山由紀夫も「頑張った数字だ」と自画自賛。しかし、いくら憎っくき前政権が作った補正予算とはいえ、目的は緊急景気対策であることを忘れている。ご両人とも、自らにはね返ることにお気づきでない。政権成立後株価は日本が一人負けの低迷を続けている。この時期に、国内総生産(GDP)を確実に下げ、景気にマイナス効果しか生じない施策を打ち出して、自慢しているときだろうか。「資源の再配分」先の子供手当や高速無料化で景気が浮揚し、失業率が上向くとでも思っているのだろうか。まさに経済財政の中長期ビジョンに欠けるまま、打ち出した場当たり政策で、日本だけが不況の虜(とりこ)になって「景気二番底」瀬戸際の迷走が続く。

 補正予算削減の政治的意味合いは、やはり大向こう受けを狙ったポピュリズムにある。民放テレビなどはのりにのっている。報道ステーションのキャスターなどは最大限の賛辞を惜しまない。鳩山内閣は、前政権を否定して、官僚押さえ込み実現の象徴として補正の削減を使っているのである。まさに「ムダの削減」の要素は少なく、「削減のための削減」にすぎない。しかしその削減は、政権公約の柱「地方重視」どころか、切り捨てにあると言っても過言ではない。地方議会からは民主党議員も含めた反発が生じているのがその証拠だ。官僚の押さえ込みも、閣僚から削減を指示されれば、国政への自らの責任を主張するような骨のある官僚はいまはいない。音より早く政権にこびを売るのが保身のイロハだ。

 切り取った財源は、民主党マニフェストの子供手当や高速道路無料化などに回すことになるだろう。子供手当は賛成31%反対49%(朝日新聞調査)。高速無料化は反対が69%(読売調査)と総じて世論は否定的な施策に、財源を回すのだ。緊急景気対策を切り取って、実施が来年度になる政策に回す。政権には、景気の好転などまさに想定外だ。景気はおそらく「二番底」に向かうのではないか。底割れの危機ですらある。なぜなら削減のための削減は、当面の景気に何の効果も及ぼさず、むしろマイナスになるからだ。大和総研の試算で公共事業と官庁施設費の執行停止6800億円で、09年度のGDPに0.1~0.2%のマイナス効果が生ずるという。子供手当も消費にまわるという保証はない。

 加えて赤字国債で賄ったと批判してきた補正を切り取り、その財源を子供手当などに回せば、子供手当などを赤字国債で賄うことになる。赤字国債を批判するなら削減額はそのまま国債減額に使うべきではないか。重要ポイントに気づいていない。おりから9月14日の当解説が指摘したとおり、「鳩山政権は赤字国債増発の方針を固めた」と毎日と産経が5日報じている。鳩山自身が選挙前「麻生太郎首相は補正予算について『財源の裏付けがある』と豪語するが、7、8兆円は赤字国債だ。こんなばかばかしい垂れ流しを安易に打ち出すべきではない」「これ以上増やしたら国家はもたない。当然減らす努力をしなければならない」と口を極めて批判してきた赤字国債をである。もともと政治家の発言など筆者は信じておらず、それ故に政権の欺瞞(ぎまん)性を指摘してきたが、ここまでくると何をか言わんやである。とにかく経済財政の中長期ビジョンという羅針盤なき航海が始まった。元官房長官・中川秀直が「日本経済が底割れしたら、国民生活も底割れする。鳩山連立政権はそこに対する危機感が薄い」と指摘しているとおりである。国交相・前原誠司は「これは静かな革命だ」と自らの言動に酔っているが、過激派の末路は知れている。
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