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2009-09-28 17:09

第4次中東戦争開戦から36年

石川 純一  フリージャーナリスト
 中東現代史に刻まれる第4次中東戦争開戦からこの10月6日で満36年。筆者がマスコミの世界に身を投じてからちょうど2年目だった。全世界の目がベトナム戦争の帰趨に注がれていたとき、はるか遠方の砂漠地帯で勃発したこの戦いは、その後トイレットペーパーの買い占めに象徴される石油危機の原因として、日本が第2次大戦後初めて中東という地域を身近に感じるきっかけとなる。常勝イスラエルの神話が崩れ去った戦争でもあった。「神話が崩れ去った」とは言っても、戦術的には過去の中東戦争と同様にイスラエルが勝った。それどころか、イスラエルはいつでもカイロとダマスカスを射程に入れることが可能だった。冷戦構造をはじめとした当時の国際情勢が、それを許さなかっただけである。

 イスラエルのゴルダ・メイア労働党政権は、サダト大統領率いるエジプト軍の開戦必至の情報をいち早く入手しながら、第3次中東戦争(6日間戦争)のような先制攻撃を避けた。エジプト軍のスエズ渡河を許さざるを得なかったのである。イスラエルは東方のエジプト軍、西方でゴラン高原に前進したシリア軍という2正面からの軍事攻撃に対峙することを迫られた。が、イスラエルはよくこれに耐えた。そして、予備役の招集による兵員の増強、米国からの兵器の供給を待って、10月10日から大反攻作戦を開始。10月16日にはスエズ逆渡河に成功したシャロン将軍(その後首相)率いる機甲部隊が、カイロを指呼の距離におく。

 サダト大統領にイスラエル本国侵攻の考えは元々なく、イスラエル軍がアラブの首都攻略となれば、ソ連が黙ってはいなかった。10月26日、米国とソ連の仲介で、イスラエルはカイロとダマスカスを眼前に睨みながら、アラブ陣営との停戦に入る。エジプトの先制奇襲攻撃を許したイスラエルの労働党政権は、ゴルダ・メイア首相をはじめ国内世論の総批判を浴びて退陣。1977年に右翼連合リクードのメナヘム・ベギンに政権を明け渡す遠因となる。戦術的には全戦線で勝ちながら、戦略的にはアラブ陣営の奇襲攻撃を許して、政治的敗北を喫した苦い戦い。これが、イスラエルにとっての第4次中東戦争だった。

 エジプトは、これをもってイスラエルと戦った最後の全面戦争とした。エジプトがイスラエルとの戦いから離脱したのである。その後、対イスラエル平和条約を締結し、イスラエルとの国交をアラブ陣営として初めて樹立したエジプトだが、これを仕掛けたサダト統領は1981年、凶弾に倒れる。メナヘム・ベギンも死に、アサド・シリア大統領、フセイン・ヨルダン国王、石油危機を仕掛けたファイサル・サウジ国王も死んだ。アラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長しかり。時代をうならせた国家指導者は、皆鬼籍に入った。すべてが小粒のいわゆる「指導者」に率いられる36年後の中東。はてさてどちらにむかうものか?
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