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2009-08-08 02:11

(連載)現代アメリカの金融理論と金融政策(2)

池尾 愛子  早稲田大学教授
 ブラック自身は、ハーバード大学の学部生時代には物理学を専攻し、同大学院にそのまま進学した後、数学の基礎と人工知能に関する博士論文を書きたいという希望を表明して、教授陣を困惑させ、いったん大学院を中退する。しかし、まもなくマサチューセッツ工科大学(MIT)への転学に成功し、「人間とコンピュータの共生」に興味をもちながら、応用数学分野で博士号を取る。彼は1965年1月からADL社で働き始め、社内コンピュータ処理や金融のコンサルティングに関わりながらCAPMや金融実務を学ぶ一方で、ハーバード・ビジネススクールやMITのセミナーに参加し、研究室を訪問する。

 1960年代後半には、大規模マクロ経済の金融セクター・モデル(いわゆるFMPモデル:FRB、MIT、ペンシルヴェニア大学の頭文字の組合せ)の構築についての、フランコ・モジリアニのセミナーに出席した。メーリングは注目していないが、コンピュータ利用による大型計量経済モデル構築には試行錯誤がつきもので、その体験を知って、ブラックも同様の体験を積めるようになったものであろう。そのことにも着目しておきたい。モジリアニは1969年に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)改訂の作業に携わっており、ブラックも固定為替制度廃止後に登場するであろう変動相場制の姿に関心を持ち始めた。

 1960年代後半から70年代にかけて、シカゴ大学のユージン・ファマたちは、CAPMの妥当性を検証する研究を行っていた。そして、CAPMが妥当性を欠き、現実の証券市場価格の動きを説明しきれないアノマリー(不規則現象)が常に存在することを明らかにした。ただ、金融工学者たちは、理論の検証ではなく、理論モデルによる説明・予測から外れるアノマリーを説明する諸因子の解明、それらを組み込んだ新たな理論モデルの構築を目指してきたといえる。

 アノマリーを説明する因子については、例えば次のようなものがあるとされた。(1)制度(週末には証券市場は開かれない。週末に金融機関の破綻処理が行われやすい。会計年度末に欠損処理が集中しやすい。間違ったあるいは歪んだ税制の存在)、(2)規制(借入限度額制限など)、(3)プロの情報トレーダーとは区別される流動性トレーダー(換金する必要のあるトレーダー)やノイズ・トレーダー(十分な情報を持たずに風説などで売買するトレーダー)の存在である。少なくともブラックにとって、理論モデルどおりに現実が動かず、アノマリーが発生する理由は、制度、規制、ノイズ・トレーダーなどが存在するためである、とも理解されていたと言ってよい。(つづく)
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