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2009-05-14 08:35

(連載)「アジア通貨基金」設立の意義とそのための課題(2)

関山 健  東京財団研究員
 これらの計画が実現すれば、事実上「アジア通貨基金(AMF)」ができることになる。従来の二国間協定に基づく外貨融通の仕組みの下では、危機に陥った国が各国と個別に支援交渉をしなければならないため、機動性に欠ける。しかし、チェンマイ・イニシアティブ(CMI)のマルチ化によって、支援決定時に関係国が1カ所に集まって意思決定する仕組みが構築されれば、支援の規模と速度は大きく向上する可能性がある。すなわち、国際通貨基金(IMF)の「金融危機の対応機能」を補完することになる。また、域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局が設置されれば、危機の予兆を事前に察知し、その深刻化を防ぐことも可能となる。これは、IMFの「金融危機の予防機能」の補完である。

 しかし、1997年当時に「アジア通貨基金」設立に反対したアメリカは、今回再びアジアで生じているこの動きを妨害することはないのであろうか?筆者は、アメリカが反対することはないと考えている。日本や中国の台頭を過度に警戒していた1990年代のアメリカとは異なり、近年のアメリカはアジアの域内協力の進展に寛容である。また、1997年当時のアメリカは自国経済が好調であり、アジア通貨危機から特段の影響を受けなかったが、現在のアメリカは、もしもアジアで金融危機が発生すれば、その信用不安が自国経済にも波及する可能性がある。したがって、金融危機の予防と対応のためにアジア諸国が協力してコストを払うのなら、アメリカとして反対する理由はないだろう。

 むしろ、「アジア通貨基金」の障害は域内にこそ潜んでいる。もしも支援決定時の意思決定が関係国の全会一致方式となれば、関係国間の意見や利害がそろわず、かえって支援の機動性と効率性を損ねる可能性がある。意思決定の方式は今後の協議で決定されるが、多くの資金を提供する日中韓の三国は互いに意思決定における重大な権限を要求するだろう。こうした域内国の意見がまとまらなければ、「CMIのマルチ化」または「アジア通貨基金」の実現は難しい。仮に制度が実現しても、その運用過程において、日中韓を中心とする関係国の意見が対立すれば、支援の効率性は著しく失われるだろう。

 また、ASEANの中にはマクロ経済統計の作成能力が低い国や経済情勢の公表を拒む国もある。そういう中で、域内の経済や為替、金融監督を一元的に監視する独立した事務局が、どれほど有効に機能できるかについても疑問が残る。これも、今後の協議における課題であると同時に、制度発足後の運用面の課題でもある。「アジア通貨基金」の成否は、この地域で実効性ある地域協力が可能かどうかの試金石であると言えよう。(おわり)
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