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2009-04-23 12:35

核兵器とプラハの春

岩國哲人  衆議院議員
 日興証券のロンドン事務所に私が着任したのは1967年8月。その翌年、68年8月にロンドンから発売されたビートルズの「ヘイ・ジュード」は、たちまち世界中で大ヒットした。ジョン・レノンとその妻が離婚し、落ちこんでいる息子ジュリアンのために、ポール・マッカートニーが作った「ヘイ・ジュード」は、次の言葉で始まる。「ジュード、そんなにくよくよするなよ、悲しい歌でも、気分ひとつで明るくなるものさ」。

 1968年に、旧チェコスロバキアで始まった政治改革を「プラハの春」という。それまでの共産党一党支配の「スターリン型」政治経済体制への批判が表面化し、一気に言論の自由をはじめとするさまざまな自由の獲得に向かって走り出した。しかし、改革の波が自国にも押し寄せられることを危惧した旧ソ連は、同年8月21日に軍事介入を決行。ソ連軍の戦車が首都プラハに突入した。4月に実現したばかりの政治的独立「プラハの春」が、わずか4カ月で崩壊した瞬間だった。「強く生きて」というメッセージを込めた若い女性歌手マルタの「ヘイ・ジュード」は、特別の意味を持つ歌としてチェコの国中に広まり、ソ連に対する民衆の抵抗運動を支えた。

 マルタは当局の弾圧を受けて、苦渋の人生を歩む。しかし「ヘイ・ジュード」は生き続け、89年、ベルリンの壁崩壊後にマルタも復権、「ヘイ・ジュード」に支えられた「本当のプラハの春」は、20年後にチェコ国民の手に帰ってきた。冷戦が終了したはずの欧州では、いま米国とロシアのミサイル配備をめぐって緊張が高まっている。オバマ大統領が欧州訪問日程に、こういう悲劇の舞台となったプラハをあえて選んで、核不拡散についての演説を4月5日に行うと予告したのは、ある意味では想定の範囲内のことであった。

 しかし、3月28日時点で北朝鮮のミサイル・核兵器に結びつくミサイル発射日を4月5日と読みこみ、核兵器廃絶への強い決意を世界に発信し、核兵器による長すぎた冬を終了させる舞台としたとすれば、わが国の4月4日の誤報さわぎの後だけに、米国の情報能力は驚異的と言える。「世界で唯一の核兵器を使用した国としての道義的責任を、米国は果たさなければならない」という、期待以上の切れ味鋭いオバマ大統領のメッセージを受けて、日本は「世界で唯一の被爆国日本」と「世界で唯一の使用国アメリカ」が連帯して、核兵器廃絶への新たな第一歩を進める、という強いメッセージを発すべきであった。それこそが、北朝鮮の危険な行為に対する最も効果的な日本外交であったはずだ。翌4月6日も7日も8日も、日本の総理や政府によるオバマ演説に共鳴するメッセージが全く発信されなかったのはどういうわけだろうか。
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