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2009-01-06 08:00
「派遣」切りの財界人は恥を知れ
杉浦正章
政治評論家
雇用・失業対策は政治に第一義的な責任があることは言うまでもないが、経済界の責任はどうか。日本を代表するトヨタ、キャノンなどの大企業が大規模な人員削減を進める一方で、潤沢な内部留保で株主対策や財務基盤強化を重視した経営を続けている。いずれも大広告主とあって、マスコミの舌鋒には鋭さが欠けるが、政界からは企業経営者の責任・矜持を問う声が年末から年始にかけてわき起こっている。ポイントは「情」を欠いた経営にある。驚いたのは、首相・麻生太郎が、12月1日に日本経団連会長の御手洗冨士夫に雇用対策を要請したその数日後に、御手洗が会長を務めるキャノンの子会社で、非正規雇用者を大量解雇したことだ。子会社とはいえ経団連会長が真っ先に派遣切りをしては、示しがつかない。トヨタも非正規雇用の大量解雇を進めたが、社長の渡辺捷昭は民放に対して5日「雇用も間違っているとは思っていない」と述べている。いま問われているのは企業の法的責任ではなく、社会的責任だ。
事実、非正規社員は、大企業によって余剰生産物破棄のごとく首を切られている。これについて公明党の坂口力元厚生労働相は、NHKの番組で「日本経団連の会長を出しているようなところが一番先に首を切るのは、企業責任を果たしているといえない」と名指しこそ避けたが、御手洗を批判した。元財務相・塩川正十郎も「経済界は悪乗りしている。明治の財界人を見習え。企業経営者は責任を痛感すべきだ。我よく人を愛すれば、人我を愛すは、経営の基本だ」と言い切った。首切りの根底には、小泉構造改革がある。小泉が企業の国際競争力をつけると称して、アメリカの真似をして、2004年に製造業への労働者派遣を解禁したことにある。その結果、雇用がコストとして考えられるようになり、いとも簡単に首を切り、それも宿泊施設まで追い出す、という非情きわまりない対応がなされているのである。
しかし、共同通信が配信して、東京新聞が大きく報じたところによると、大手製造業16社の「内部留保」は33兆円もあり、キヤノンは配当について、08年3月期実績水準を維持する方針だという。東京新聞は大晦日の社説でも「そんなに余裕があるなら、なぜ従業員の雇用確保に使えないのか。従業員の生活安定を図るのは、企業市民の責務だ。人間は機械でもなければ、コストでもない。切れば赤い血が噴き出る」と見事な批判を展開している。キャノン、トヨタと言えば新聞・テレビにとって広告の大得意先だ。東京新聞は勇気ある報道ぶりだが、ほかのメデイアは「触らぬ神にたたりなし」と決めこんでいる。後手後手の政治の対応も問題だが、失業垂れ流しの大企業経営者の責任は問題ではないのか。
企業経営者は小泉構造改革以来、利益追求至上主義となり、労働運動の低迷もあって、賃金・雇用をなおざりにしてきた。社会に貢献し、社会から見返りを受ける、という経営哲学や道徳心を持つ経営者は、極めて少なくなった。それに加えて株主の顔色ばかりを気にする“官僚的経営者”が増えた。日本的経営には“情”が不可欠であることに気づかない。厚労相・舛添要一は派遣労働法の見直しを表明しているが、国会は野党も含めて、選挙意識のパフォーマンス的な失業対策の色彩が濃厚であり、時間がかかる。ここはまず財界が「失業者垂れ流し」を抑える企業努力をすべき時だ。財界人は恥を知るべきだ。
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