ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2008-10-07 09:06
首相の心境は「断崖絶壁」
杉浦正章
政治評論家
昔政治記事に「首相の心境物」というジャンルがあった。官邸キャップなどが首相の心境を読み解くのだが、最近では客観性重視の風潮もあってあまりやらない。しかしいまほど首相・麻生太郎の心境が気になるときはない。おそらく目のくらむような断崖絶壁に立たされた心地だろう。向こう岸に跳ぼうか、跳ぶまいか。跳んでしまって大丈夫か。跳ばねば支持率が下がり続ける。チャンスを失いかねない。日本の首相が解散をめぐって、これほどのジレンマに置かれたケースを知らない。確かに首相の心境は、自民党の独自調査で「惨敗」の報告を受けて、「君子ひょう変」と言ってもよい変わり方を見せた。それまでは「解散」こそ口に出さなかったものの、ボディー・ランゲージは明らかに冒頭解散も辞さぬ構えであった。
9月22日の総裁当選直後も「今から自民党は断固民主党と戦わねばならぬ。勝って初めて天命を果たした事になる」と“主敵”を小沢に据え、当たるべからざる勢いだった。自らの人気をテコに党勢を建て直せる、と踏んでいたのだろう。その勢いは29日まで続いたが、同日「与党で過半数に達さない可能性がある」との報告を聞いて、まさに冷水を浴びせられた心境となった。「麻生人気」は上滑りしていたのである。それはそうだろう。国民にしてみれば過去1年間に、消えた年金、防衛次官汚職、後期高齢者医療制度、居酒屋タクシーなど長期政権の「積年の病弊」が一挙に吹き出して、今度は144万件の「消した年金」である。もうばかにするな、今度ばかりは野党に投票する、と思うのが自然かもしれない。
自らの言動でなく、あくまで「積年の病弊」が麻生を窮地に陥れたのであり、その意味では安倍晋三、福田康夫と全く同じ立場に立たされたことになる。過去の2人と異なるのが、1年以内に解散・総選挙を断行せざるを得ないという、待ったなしの立場に置かれていることであろう。麻生は「毎日1度は解散を考えている」(自民党国対委員長・大島理森)というが、それどころではあるまい。朝昼晩と考えているに違いない。朝、「補正予算成立後の月内解散」を考えれば、昼は「給油法案成立後の1月解散」を考え、支持率が早くも7%も下がった事を聞いて晩には「任期満了選挙」を考えるといった具合である。「状況をどこまで引き延ばせるか」とも考えているのだろう。
財務金融相・中川昭一の訪米を9日として、まず補正予算成立直後の解散を遠のけ、自らの訪中日程を今月下旬に設定して、解散よりも外交のイメージを打ち出すのも、首相の引き延ばし作戦であろう。金融危機も“負の助け船”として引き延ばしの口実にできる。しかし、調査で当選圏内に入ったとみられる党幹部からは、早期解散の発言が相次ぐ。公明党も最早自分の党の都合しか考えない。「早くやれ」と矢のような催促だ。一方で落選必至の議員からは「こうなったら任期満了を」と懇願だ。しかし状況はナイヤガラ瀑布間近のボートだ。解散への流れを止めるのは極めて難しい。麻生が最終決断をするのは、エイヤッと目をつぶってするに違いない。その時は自ら野党党首となって小沢一郎を追及する場面が脳裏に浮かんでいるかもしれない。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:4819本
グローバル・フォーラム