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2008-05-30 08:31
「軍用機派遣」偏重の報道にも責任がある
杉浦正章
政治評論家
一転して中国への空自機派遣が見送りとなったが、報じられているように中国政府がインターネットへの書き込みなど世論を配慮したためだろうか。そうではあるまい。中国政府内部の対日強硬派がそれほど甘くなかったということだろう。主席・胡錦涛の対日融和政策にもかかわらず、政権内部の抗争の激しさをむしろ感じさせる。加えて、「軍用機派遣」ばかりクローズアップさせた日本のマスコミの責任も大きい。そもそもの発端は中国の日本大使館を訪れた中国武官と日本の武官の“茶飲み話”に毛の生えたような話を、官房長官・町村信孝が記者会見で発表してしまったところにある。結局、世論はミスリードされた形となり、全国紙とテレビ各社は大々的に軍用機派遣を報じ続けた挙句に、ぶざまな置いてけぼりを食らった。町村の発表だけに乗って、総合取材を怠ったことが原因だ。
さすがにばつが悪いのか、毎日新聞は自衛隊機派遣に「当面見送り」と“当面”をつけた見出しを取った。これはミスリーディングなうえに、言い訳がましい。“当面”ではなく、“災害での派遣”はないのである。素直に過ちを認めるべきだ。朝日新聞なども信じ切っていたようで、「空自C130を3機、週内出発準備」と大見出しにとっていたほどだ。延期の理由について読売新聞は、「世論の反発に配慮した中国政府が、受け入れに難色を示したためだ」と報じており、他紙もインターネット掲示板への反対論の書き込みを例にとり、国民の反発を主原因に挙げている。しかし、中国の外務省副報道局長・秦剛は29日自衛隊機派遣について「各国の政府や軍が緊急援助物資の提供をしてくれるならば、我々は歓迎したい」と歓迎の意を表明している。
いったん受け入れを表明しながら、掲示板に左右されるような国ではあるまい。掲示板の書き込みには自衛隊機受入れ論や歓迎論もある。むしろ軍を含む対日強硬派の反発、巻き返しが政権内部で生じ、これを大地震という緊急事態にもかかわらず抑えられなかったことを意味するのではないか。中国の国際情報紙『環球時報』は29日「両国の関係者は、日本の軍隊が中国に足を踏み入れるのではと心配している」と論評しているが、これは軍を中心とする対日強硬派の不満を示すものにほかならない。町村も29日にいたって「中国政府にいろいろな考えがある」と語り、慎重論の浮上を示唆していた。一方で日本のマスコミの報道ぶりにも問題はあった。中国の救援要請を前面に押し出すべきところを、「中国へ自衛隊機検討」(朝日新聞)とトップで報じるなど、自衛隊派遣をクローズアップして、政治問題化させてしまった。これが中国側にはね返って、政権内部や世論に反発を生じさたわけだ。
たしかに“ニュース・センス”としては、「軍用機派遣」を取り上げたいところだろうが、この場合は疑問が生ずる。本質は“震災報道”であるべきであり、これを大げさな“政治報道”とする必要もない。新聞テレビはセンセーショナリズムに流れ、配慮がたりなかったのではないか。軍用機は中国と朝鮮戦争をしたアメリカも派遣しており、なぜ反発が生じないかである。米国のマスコミが軍用機派遣など問題にするわけがないからである。いずれにせよ中国は、火急の時である。軍用機を使う使わないなど問題にしているときではない。航続距離が短く、大量の物資輸送もできない軍用機など使わなくてもよい。民間機をチャーターして、テント200張などとけちなことを言わずに、政府は大量援助態勢を早急に整えるべきだ。
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